野獣と噂の王太子と偽りの妃
乾杯のあと和やかに食事は進むが、プリムローズはどうにも王妃と王太子の様子が気になって仕方ない。

(それはそうよね。どこの馬の骨とも分からない小娘と、どうして一緒に食事しなければ?とお思いなのだわ)

プリムローズはひたすら視線を下げて、大人しく食べ続ける。

最後にデザートのアーモンドソルベがサーブされた。

と、プリムローズの前には、別の小さなプレートが置かれる。

え?と顔を上げると、先程一緒にクレームブリュレを作ってくれたシェフが、プリムローズににっこり笑いかけていた。

「よく冷やしましたので、食べ頃かと存じます。プリムローズ様」
「あ、はい。ありがとうございます」

するとシェフは、国王達にお辞儀をしてから説明する。

「プリムローズ様におかれましては、食べ物のアレルギーがご心配とのことで、別のデザートを自らお作りになられました」
「ほう、美味しそうだな。それは何かな?」

プリムローズは姿勢を正して国王の問いに答える。

「はい。オレンジ風味のクレームブリュレでございます」
「へえ。私ももらっていいかい?」
「ええ?!そんな、素人のわたくしが作ったものなど、国王陛下のお口には恐れ多くてとても」
「いや、既にいただいたことがあるよ。『庭師のおじいさん』はね」

あっ!とプリムローズは小さく声を上げる。

(そうだわ。国王陛下と知らずに、ケーキをおすそ分けしてしまったのだった。私ったら、なんてことを)

固まっているプリムローズを尻目に、国王はシェフに、私の分はあるか?と尋ねる。

「はい。すぐにご用意いたします」

すると王太子までもが、俺も食べたいなと言い出した。

「あら。それなら私もいただくわ」

小娘の作るデザートとはどんな物だと言わんばかりに王妃が言い、結局皆でクレームブリュレを食べることになった。

「おおー!これは美味しい。オレンジの良い風味がするな」

国王がひと口食べてそう言うと、王太子も、うん、うまいと頷く。

「まあ、そうね。たまにはこういうのも悪くないわ」

王妃も渋々同意するが、食べるスピードは誰よりも速かった。

プリムローズだけは食べた心地がせず、ひたすらヒヤヒヤしながら身を縮こめていた。
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