野獣と噂の王太子と偽りの妃
「まあ!続々とゲストの方がいらっしゃるのね。なんて賑やかなのかしら」

プリムローズは二階の部屋から、エントランス前のアプローチを見下ろして呟いた。

大きな噴水をぐるりと一周するように、次々と馬車がやって来ては、ゲストを降ろして去っていく。

フォーマルに着飾った紳士淑女達が、にこやかに馬車から降りては、エントランスに向かっていた。

一階の大広間からは、管弦楽団の華やかな演奏が聴こえてくる。

プリムローズは緊張も忘れてわくわくしてきた。

「さあ、プリムローズ様もそろそろ大広間へ」

綺麗に髪を結ってくれた侍女が、プリムローズを促す。

プリムローズはドレスの前をつまみながら、ゆっくりと部屋を出た。

するとドアの横で壁にもたれていたカルロスが身を起こす。

「まあ!カルロス王太子殿下。ごきげんよう」

驚きつつ、プリムローズは膝を曲げて挨拶した。

「やあ、これは見違えたな。じゃあ行こうか」

カルロスはそう言ってプリムローズに手を差し伸べる。

「は?あの、殿下?」

どういうことかとプリムローズがためらっていると、カルロスはプリムローズの右手を取って自分の左腕に掴まらせた。

「パーティーだからね。女性を一人にはさせられない」
「ですが、王太子殿下とわたくしとでは、身分が違いすぎます」
「伯爵令嬢なのに?」
「ええ。殿下はどこかの王女様とご一緒にいらした方が…」
「君を一人にする方が、後ろ指を差される。ほら、行こう」

有無を言わさず歩き始めたカルロスに、仕方なくプリムローズも歩き出す。

そのまま緩やかなカーブを描く大階段を下りると、ゲストで賑わう大広間に足を踏み入れた。
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