野獣と噂の王太子と偽りの妃
(プリムローズ…)

なぜ彼女がここにいるのか。
どうしてカルロスとダンスを踊っているのか。

そんなことはどうでもよくなるほど、マルクスはもう一度プリムローズに会えた喜びに胸を震わせる。

今すぐ駆け寄って抱きしめたくなる衝動を抑え、マルクスは二人の様子を見守った。

やがて一曲踊り終えると、プリムローズとカルロスはテラスに出た。

マルクスもあとを追う。

どうやって声をかけようか。

カルロスが離れたら、すぐにでもプリムローズを抱き寄せたい。

心を焦らされながらじっと二人を見つめていると、いきなりカルロスが身をかがめ、プリムローズにキスをした。

マルクスはハッと息を呑む。

頭をガツンと殴られたような感覚に陥った。

プリムローズも驚いたように後ずさっている。

マルクスは金縛りにあったように、一歩もその場を動けなかった。

やがてカルロスがくるりと向きを変えてこちらに向かってくるのが分かり、思わずマルクスは大きなカーテンの陰に身を潜めた。

カルロスはそのまま大広間を出て行く。

プリムローズを振り返ると、呆然としたように立ち尽くしている。

あんなに駆け寄りたいと思っていたのに、マルクスはなす術もなく、プリムローズがゆっくりと歩き出して目の前を通り過ぎていくのを、ただ黙って見送るしかできなかった。
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