野獣と噂の王太子と偽りの妃
どれくらいそうしていたのだろう。

マルクスはようやく、のろのろとカーテンの陰から離れて歩き出す。

父である国王に声をかけられ、少し言葉を交わしたが、何を話したのかは定かではない。

勧められるままシャンパンを飲み、王妃や他のゲストとも歓談したあと、早々に帰ることにした。

失礼いたしますと挨拶して回り、マルクスはエントランスの開け放たれた扉から外に出る。

アンディのもとへ向かうと、アンディは上を見上げて何やらそわそわしていた。

(どうしたんだ?)

つられて上を見上げたマルクスは、ん?と首をひねった。

(バルコニーに大きなオレンジがぶら下がっている?)

一瞬本気でそう思った。

(違うな。オレンジのマスコットキャラクターか?確か、オランジェちゃん。いや、違う。プリムローズだ!)

次の瞬間、マルクスは駆け出していた。

プリムローズが柵から手を滑らせて、その身体が宙を舞う。

「プリムローズ!」

懸命に手を伸ばし、プリムローズを受け止めた。

両手に感じるプリムローズの身体の温かさ。

マルクスはギュッとプリムローズを胸に抱きしめた。
< 70 / 114 >

この作品をシェア

pagetop