野獣と噂の王太子と偽りの妃
「プリムローズ、一体なんてことをしたんだ?バルコニーから飛び降りるとか、何を考えている?」

ようやく気持ちが落ち着くと、マルクスは思い出したとばかりに、ブリムローズに説教を始めた。

「あのまま地面に落ちていたら、どうなっていたと思うんだ?そなたがケガをするなんて、考えただけで俺は耐えられない」
「ごめんなさい。あの、わたくし、どうしてもマルクス様に会いたくて…」
「え?俺に?」

マルクスは語気を弱めてプリムローズの顔を覗き込む。

「はい。窓からアンディの姿が見えて、マルクス様がいらしてるんだって嬉しくなって。でも部屋の外には侍女がいるので出られなくて、それでアンディに飛び乗ろうと」

そういうことかと、マルクスは小さく息を吐く。

「離れていても無茶をするなら、いっそのことそばに置いた方が安心だな」

ポツリと呟くマルクスに、プリムローズは、え?と首を傾げる。

「いや、何でもない。プリムローズ、国王に挨拶に行こう」
「国王陛下に?何のご挨拶ですか?」
「結婚の挨拶だ」

…は?と、プリムローズは目をしばたかせる。

「マルクス様、国王陛下とご結婚なさるんですか?」
「はっ?どうしてそうなる?」
「だって、結婚のご挨拶って…」
「結婚の許しをもらうんだ。そなたとの結婚を認めてもらう」
「そなたって、どなたですか?」
「だから、そなただ」

ソナタ…とプリムローズは呟く。

突然のことに、頭がついていかないらしい。

「プリムローズ、靴はどうした?」
「あ、飛び降りる前に脱ぎ捨てました」
「は?やれやれ。いつの間にこんなじゃじゃ馬娘になったんだか。仕方ない、このまま抱いていくか」

そう言うとマルクスは、プリムローズを抱いたままエントランスに戻り、大広間に入った。

「え、ちょっと、マルクス様!」

慌ててじたばたするプリムローズを軽々と抱いたまま、マルクスは国王のもとへと一直線に向かう。

気づいたゲスト達が、まあ!と驚いて道を開けた。

「父上」

呼びかけると、国王は振り返るなり目を丸くする。

「ど、どうした?マルクス。それにプリムローズも」
「父上。私達の結婚を認めていただきたく、お願いに上がりました」

ええ?!と、国王よりも大きな声でプリムローズが驚く。

「なんだ、マルクス。プロポーズよりも先に私に挨拶に来たのか?順序が違うぞ。プリムローズが頷かんことには、私も認められん」
「かしこまりました。では彼女を頷かせます」

そう言うとマルクスは、すぐ目の前にあるプリムローズの瞳をじっと見つめた。

「プリムローズ、もう二度とそなたを手放すことはない。一生、俺のそばにいろ」
「マルクス様…」

プリムローズはまた涙で目を潤ませる。

「返事は?」

プリムローズはしっかりとマルクスを見つめながら大きく頷いた。

「はい!」
「よし、いい子だ」

そしてマルクスは優しくプリムローズに微笑んだ。

「必ずそなたを幸せにしてみせる。俺を信じて、ずっとそばにいて欲しい」
「はい。ずっとずっと、あなたのそばにいさせてください。それがわたくしの幸せです」
「ああ。ずっと一緒に生きていこう、プリムローズ」
「ええ。ありがとうございます、マルクス様」

二人が見つめ合って微笑むと、わあ!と周りから歓声が上がった。

「父上、お許しいただけますか?」
「もちろんだ。私もどうにかしてプリムローズとお前が結ばれるようにと、気を揉んでいたのだからな。おめでとう!マルクス。やっと幸せを見つけたな。プリムローズ、どうか息子をよろしく頼む」
「はい、ありがとうございます。国王陛下」

一斉に拍手が沸き起こり、マルクスは深々とお辞儀をする。

「皆様、ありがとうございます。それでは我々はここで」

くるりと向きを変えて歩き出すと、おめでとう!お幸せにと、祝福の声で見送られた。

マルクスはアンディのもとへ行くと、プリムローズをその背に乗せてから、ヒラリと自分も跨る。

「さてと、帰るか」
「はい!」

ヒヒーン!とアンディが答えて、ご機嫌で走り出した。
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