野獣と噂の王太子と偽りの妃
「プリムローズ、こっちにおいで」
「はい」

マルクスはプリムローズの手を引いてベッドの端に座らせると、優しくその両手をすくい上げた。

「アザはだいぶ消えたな」
「はい。もう少しでなくなると思います」
「よかった」

まだ心配してくれていたのかと、プリムローズが嬉しさに小さく微笑んでいると、マルクスはプリムローズの手首に顔を寄せてそっとアザにキスをした。

(え…)

プリムローズは驚いて、身体をピクッとさせてしまう。

「そなたの綺麗な身体にアザなど残させない。早くよくなるように」
「…ありがとうございます」

プリムローズの顔は真っ赤に染まる。

「どうした?熱でも出たか?」
「いえ!何でもありません」
「そうか。じゃあ、今夜はもう休もう」
「はい」

プリムローズが頷いて立ち上がろうとすると、マルクスはプリムローズの身体に片手を回してそのままベッドに横たわった。

「…はい?」

気づけば自分も横たわっており、天井を見上げてキョトンとするプリムローズに、マルクスは眉根を寄せる。

「プリムローズ、色気のかけらもない声を出すな」
「は、はいー?!」
「だから、そんな地声を張るなってば」

そう言って半身を起こしたマルクスは、右肘をついて頭を支えると、左手で優しくプリムローズの髪をなでる。

「もう二度と離さないと言っただろう?ずっとそばにいろと」
「あの、でも…」
「でも、なんだ?」
「その、マルクス様はお一人でしっかり身体を休ませなければ」
「そなたを抱いて寝た方がぐっすり眠れる」
「はっ?!」

プリムローズはもう、耳まで真っ赤になった。
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