野獣と噂の王太子と偽りの妃
広がる幸せ
「それでは行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ。お気をつけて、マルクス様。サミュエル」

またいつものように、エントランスでマルクス達を見送る日々が始まった。

プリムローズは正式にマルクスのフィアンセとして離れの屋敷で一緒に暮らし、国王はそんな二人を警護するようにと、近衛隊を屋敷の周りに配置した。

結婚の準備も進めたいと儀式のスケジュールを組もうとする国王を、マルクスが止めた。

自分が王太子だとは国民に認識されていないから、形式上の手続きだけでいいと。

プリムローズもそれに同意したが、国王は、たとえ列席者が身内だけだとしても結婚式は執り行うと断言した。

日取りも四月と決まり、年が明けると、衣装やティアラ、指輪のデザイン選びと採寸などの準備に追われる。

ローレン家には、正式に王家から結婚式の招待状が届けられ、父も母もエステルも、「プリムローズは、あの野獣と噂される王太子と本当に結婚するのか?!」と驚いたらしい。

大丈夫か?脅されてないか?と書き綴られた手紙を読み、プリムローズはふふっと笑う。

「どうした?何か良いことでも書いてあったか?」

マルクスの問いに、プリムローズは更に笑った。

「わたくしの家族が、マルクス様にお会いするのが楽しみなのです。びっくりするだろうなって」
「え?それはもしや、こんな男に娘はやれんってことか?」
「いいえ。こんな素敵な王子様と巡り逢えたなんて、娘は世界一の幸せ者だって」

そう言ってにっこり笑うプリムローズに、マルクスは頬を緩めて肩を抱く。

「世界一の幸せ者は俺の方だ。こんなにも心が清らかで美しく、優しくて可憐なそなたと結婚できるのだからな」

チュッと唇にキスを落とすと、プリムローズは頬を染めてうつむく。

その姿がたまらなく愛おしくなり、マルクスはまたプリムローズに口づけた。

「そなたと出逢って、俺の世界は変わった。プリムローズ、俺の人生の全てをそなたに捧げよう」
「マルクス様…。わたくしもです。この先のわたくしの人生は、いつもあなたと共にあります」

二人は微笑んで見つめ合うと、どちらからともなく顔を寄せ、互いを慈しむように長いキスを交わした。
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