野獣と噂の王太子と偽りの妃
「おお、これはマルクス殿。遠い所をようこそお越しくださいました」

国境でシルベーヌの警備隊長と合流し、シルベーヌ国の中央に位置する王宮に案内されると、国王が自らエントランスに出向いて歓迎してくれた。

「お目にかかれて大変光栄に存じます、国王陛下」
「そなたのことは、常々報告を受けています。我がシルベーヌ国にとって、あなたは英雄だ。いつもありがとう」

白髪のシルベーヌ国王は、破顔してマルクスに握手を求める。

かなり年輩のシルベーヌ国王は、妃とは早くに死別して子どももいないことから、世継ぎ問題も抱えていた。

国全体としても、少子高齢化と人口減少が進み、国民の間から将来を不安視する声が上がっている。

その上ギルガ王国に制圧されて支配下に置かれれば、もはやシルベーヌ国は消滅したも同然。

そんな状況の中、ギルガの侵略を止めてくれるマルクスは、シルベーヌ国にとっては救世主と言えた。

長旅で疲れただろうと、シルベーヌ国王はマルクスとサミュエルに豪華な食事をふるまう。

歓談しながら食事を済ませると、マルクスはカルディナ国王から預かった書簡を、シルベーヌ国王に手渡した。

うやうやしく受け取って、早速巻き物を開いたシルベーヌ国王は、読み進めるうちに驚いたように目を見開いた。

どうしたのかと、マルクスは首をひねる。

書簡には、父であるカルディナ国王が、今後シルベーヌ国と条約を結ぶに当たり、大まかな内容を記してあるはずだった。

既にマルクスが、シルベーヌの警備隊長を通じてある程度の話はしてあったが、改めてそれがカルディナ国王の意向であるとしたためたものだ。

特に驚かれる内容ではないはず。

だが書簡を読み終えるとシルベーヌ国王は椅子から立ち上がり、マルクスに深々とお辞儀する。

マルクスも慌てて立ち上がった。
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