野獣と噂の王太子と偽りの妃
結婚式
冬の寒さが和らぎ、いよいよマルクスとプリムローズの結婚式の日がやってきた。

「まあ!プリムローズ様。なんてお綺麗なの…」

レイチェルは、早くも目に涙を溜めながら口元に手をやって感激する。

純白のウェディングドレスに身を包み、アップでまとめたクラシカルな髪型に煌めくティアラ。

幸せと輝きに満ち溢れたプリムローズは、微笑んでお礼を言う。

「ありがとう、レイチェル」

花嫁の控え室に、マルクスの姿はない。

お互いの婚礼衣装姿は、式で初めて見ることになっていた。

(マルクス様、きっととってもかっこいいだろうな。どうしよう、なんだかドキドキしてきちゃった)

プリムローズは頬を赤らめつつ、手にした白いブーケに顔を寄せた。

「本当になんてお美しいのかしら。ああ、今日のこの日を迎えられてよかった。王太子様というお立場にありながら、離れにひっそりと暮らしていらした殿下が、プリムローズ様のような素敵な方と結ばれるなんて、わたくし感無量で…」

レイチェルの涙に、プリムローズも目を潤ませる。

「私もマルクス様に出逢えて、レイチェルやサミュエルと一緒に暮らせて、本当に幸せよ」
「プリムローズ様…」

マルクスとプリムローズは、結婚式を終えるとシルベーヌの古い宮殿で暮らし始める。

そのことを告げた時、レイチェルもサミュエルも迷うことなく、自分達もついて行くと断言した。

「時々このお屋敷にも帰ってくるから、二人はこのままここに住んでくれればいいのよ」
とプリムローズが言っても、二人は断固として考えを変えなかった。

二人を巻き込んでしまっていいのかと戸惑ったものの、実のところは心底心強いと、プリムローズは二人に感謝していた。

やがてコンコンとドアがノックされ、サミュエルの声がした。

「プリムローズ様、そろそろお時間です」
「はい、今まいります」

プリムローズはゆっくりと椅子から立ち上がり、レイチェルを振り返る。

「行きましょうか、レイチェル」
「はい、プリムローズ様」

顔を見合わせて、ふふっと笑うと、二人はドアへと向かった。
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