桐生さんのお世話係?
もうこの話しは終わりだ。



「行きま」


「ハッ!!」



男の人に背を向け歩き出したその時、バカにしたような笑い声が聞こえた。



「所詮お前も薄汚いあの女の子どもだな!!今度はその男に媚を売って生きて行く気なんだな!!」

「……」


振り返った私が見たのは、私のことを嘲笑いながら暴言を吐く男の人。


……何を言ってるのだ、この男は。


薄汚いあの女は認めよう。


私もそう思うし。


現に私はあの女の子どもだ。


そこはまぁ仕方ない。


でもっ!!


私がいつ、男に媚を売った!?


今度はって何!?


「金持ちの匂いは嗅ぎ分けるってか!!アハハハハッ!!」


「っっ」


「……なんだよ、その目はっ」



笑みを消し、怒鳴る男。


視線が私……ではなく。


……珊瑚?


私も珊瑚の方を見ると、いつの間にか起きていた。


泣くこともなくジッと男を見つめていた。


ただ真っ直ぐジッと。



「オイ、赤子にまで何ケチつけてんだっ。ゴルァッ」



丹波さんが言ってくれる。



「フンッ。気持ち悪い目をしやがって」


「このっっ」



私のことだけならまだしも、珊瑚のことまでっ。


表情を歪めた私に、またしても男は嗤う。



「本当のことだろ?この売女どもがっ」


「〜〜っっ」



どうしてっ。


ただの隣人にこんなに言われなければならないのかっ



ふざけるなっ。

ギッと男を睨んだ、その時


桐生さんが私の前に立った。


私と珊瑚を男の視線から逃がすように。


父親を知らない。


だから、わからない。


けれど


確かにこの背中は自分達を守ってくれる。


そう感じで、不覚にも涙ぐんでしまった。



「あだっ」
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