桐生さんのお世話係?
「この部屋は引き払う。持っていくものを」



「あっ、もう出来てます」



「は?」



「あ?」



「え?」




なんで驚くの?




「いくらここが安くても家賃が勿体ないので、住み込み・もしくは寮にでもと思って」




私は隣の部屋に行き、眠っている珊瑚を起こさないように抱っこして、大きなリュックを二つ持つ。




「またしてもお手数をお掛けしますが、ここで売れる物は売って頂いて借金の返済に」




TVとかババァのドレッサーとか、電子レンジとか。



まだお金になると思う。




「アレは良いのか?」



「アレ?」




桐生さんがクイッと顎を向けたのは



“制服”



壁に掛けてある高校のセーラー服。




「辞めるからいりません」



「……」



「アレも売れますかね?」




現役女子高生が着ていた制服。



高く売れないかな?



顔写真とかないと無理かな?




「……持つ」



「ありがとうございます」




丹波さんがリュックを二つ持ってくれる。




「これだけでなのか?」



「はい」




本当に必要なものだけ。



珊瑚に至ってはオモチャもない。



買ってあげることも出来なかった。



ごめんね。




「えっと……丹波さん?」



「ああ。丹波重吾だ。そしてあの方が越前桐生さん」




あ、桐生さんって名字じゃなくて名前だったんだ。




「私は小芝翡翠です。そしてこの子が妹の珊瑚です」



「二人とも別嬪さんだな」




丹波さんが笑う。



別嬪さん……か。




「可愛く産んであげたのだから、アンタならいくらでも生きていける」



「うん?」



「母の最後の言葉です」




ーーこの顔ならいくらでも客がとれる。



そういう意味。




桐生さんは無表情のまま、丹波さんは笑みが強張った。




丹波さんは見た目は“まんま”だけどきっと優しい人……なんだな。




「行くぞ」




そう言って桐生さんが外へ。



私達もその後に続く。




十六年住んだ家。



良い思い出など殆どないけれど……



私は最後に頭を下げた。
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