『ブレッド』  ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした語学留学生と女性薬剤師の物語~【新編集版】
 失意のダンテは来る日も来る日も聖トリニータ橋に立ってベアトリーチェの面影を探した。

 しかし、比類なき美しい顔を思い出す度に後悔が募って気分は闇に落ちた。

 もはや何をする気も起らなくなり、生きる意味を失って屍となるしかなかった。

 すべてがなくなったのだ。息をすることさえ苦痛だった。

 それでも橋へ向かう足を止めることはできなかった。

 あの日彼女とすれ違った橋に向かわないわけにはいかなかった。

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