『ブレッド』  ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした語学留学生と女性薬剤師の物語~【新編集版】
 ボーナストラックになった。
 ふと写真が見たくなったので机の引き出しから取り出すと、焼き上がったパンを棚に並べている弦が少し緊張したような面持ちで写っていた。
 最初に送ってくれた写真だった。
 まだ幼さが残っていて、可愛い弟のように思ったことが蘇ってきた。
 2枚目は色変わりの帽子とエプロンを身に着けた弦が両手にパンを持ってこちらを見ている写真だった。
 ポーズを付けていたが、どことなくぎこちなかった。
 しかし3枚目以降になると写るコツをつかんだのか、笑顔がサマになっていた。
 
 最後の写真になった。
 東京の住所に届いた最新の写真だった。
 それまでとは顔つきが変わったように感じられて、なんとなく凛々しくなっているように見えた。
 少なくとも弟のような可愛い顔ではなかった。

 一人前の男になろうとしているのだろうか?

 呟きを右手の人差し指に乗せて弦の鼻をチョンと突くと、まるでそれを待っていたかのように曲が変わった。
『IF I LOVED YOU』

 もしもあなたを愛したら……、

 ポーラ・コールのセクシーな歌声が流れてきた。

 もしもあなたを愛したら……、

 フローラの歌声が重なった。

 もしもユズルを愛したら……、

 凛々しい表情で写る弦がフローラの胸に抱かれた。
 
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