『ブレッド』  ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした留学青年と女性薬剤師の物語~【新編集版】
本編:現代のフィレンツェとニューヨーク(フローラと弦)
        現代フィレンツェ

 今日も店は賑わっている。
 観光客の来店が途絶えることはなく、我先にと商品に群がり、目当てのオーデコロンやスキンケア、石鹸やボディケア製品を買い求めている。

 薬剤師として働くフローラ・デ・メディチは応対に追われていたが、疲れはまったく感じていなかった。
 壁に飾られている代々の経営者の写真が誇りと緊張感を与えてくれているからだ。
 なにしろ、ここは世界最古の薬局であり、そんじょそこらの薬局とはわけが違う。
 歴史と伝統による品格が唯一無二の存在に押し上げているのだ。
 だから店で働く者たちは背筋をピンと伸ばして、顎を引いて、穏やかな笑みを湛えて、上品に応対することが身に着いている。
 もし横柄な態度やおもねる(・・・・)ような応対をしようものなら即座に厳しい指導が飛んでくる。
 店の品格に合わない行動は許されないのだ。

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