『ブレッド』  ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした留学青年と女性薬剤師の物語~【新編集版】
「ご存知! 愛と正義のセーラー服美女戦士セーラームーン!」とスラスラ言えるようになった時は父親に抱え上げられて両頬にキスの嵐が降ってきた。
 この子は天才に違いないと狂喜乱舞してくれた。

 嬉しくなったフローラはもっと日本語が喋れるようになりたいと勉強に励むようになり、大学在学中にローマで実施された『日本語能力試験』で『N1』に認定されるという快挙を成し遂げるまでになった。
 N1は最も難しいレベルであり、認定されるためには幅広い場面で使われる日本語を理解する必要がある。
 新聞の論説や評論などを読んで理解することや、自然なスピードで会話をすることなどが求められるのだ。
 つまり、ネイティヴの日本人と変わらない日本語能力が身に着いているかどうかが試されることになる。
 そんな超難関の試験だったが、フローラは一回で合格を勝ち取った。

 本人はもちろん嬉しかったが、両親の喜びようはそれを超えていた。
 そのせいか、父親は最高のプレゼントを用意してくれた。
 大学を卒業する年に日本へ行かせてあげると言ったのだ。
 今度はフローラが狂喜乱舞した。
 父親の首にしがみついて両頬にキスの雨を降らせた。

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