『ブレッド』  ~新編集版~
 得意満面になった女はそれを何回も繰り返してすべての実をすり潰してから皮を取り除いた。
 白い粉だけになると、お腹がグ~ッと鳴った。
 すぐさま一塊(ひとかたまり)を口に入れて飲み込もうとしたが、運悪く男が帰ってきた。
 機嫌は直っていなかった。
 咄嗟(とっさ)に女は白い粉を差し出した。
 そして食べるように目で合図した。
 男は訝し気な表情を浮かべたが、それでも女の手から直接白い粉を食べた。
 すると男の表情が柔らかくなり、もっとくれと催促した。
 女が残りの白い粉をすべて差し出すと、すぐに食べてしまい、もっと欲しいと催促された。

 女は男の手を取って草原に連れて行った。
 そして穂をしごいて男の両手の中に実を入れ、次に自分の両手も実でいっぱいにした。
 家に戻った女は実をすり潰して皮を取り除いて白い粉だけにし、こういうふうにすれば食べられるようになることを男に教えた。
 すると男は素直に頷いて女の言うとおりにやり始めた。
 それを見た女は草原に行って両手いっぱいの実を持ち帰り、それを何度も繰り返した。
 
 大量の白い粉ができた。
 それを2人で分け合った。
 お腹いっぱいになった男は機嫌が直り、女を優しく抱いた。
 睦み合う2人を古の月が微笑むように見守っていた。

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