大っっ嫌いなアイツとケンカしてたらパラレルワールドに来ちゃいました!


 先日佐神先生に言われた通り、私は萌歌と仲直りして目標を一つ達成した。
 でも、本題はここから。
 萌歌を元の世界に連れて帰りたい気持ちは山々だけど、彼女の意見も尊重したい。
 気持ちが両挟みになったまま彼女にその旨を伝え続けた。
 でも、彼女は首を横に振るばかり。
 どうやら、この世界でやっていくつもりらしい。
 だから、3日後の満月の日で私たちはお別れに……。
 心が決まらない。
 でも、それが運命だと割り切らなければならない。


 ――20時。
 私は桐島くんと心葉を連れて夜の学校にやって来た。
 目的は、萌歌のダンス練習を見学する為。
 元の世界に戻ったら、もう二度と”いまの彼女”のダンスを見ることが出来なくなるのだから……。

 私たちは校庭を前に三人横並びで花壇のレンガに腰を下ろす。
 萌歌は手ぐしで長い髪をかき上げてハート型のクリップでひとまとめすると、ちょいちょいとスマホを操作してからカバンの上に置いた。
 私は事前にダンス動画の撮影を頼まれていたので、スマホをコンパクト三脚にセットして、彼女が定位置についてから録画を始めることに。

 彼女は曲が始まったと同時に手をスッと横へ伸ばしてダンスを始める。
 校庭一面を照らしているナイター照明は彼女を照らしている。
 キレやステップも息を呑むほど上出来に。
 事前にミュージックビデオで今回の課題のダンスを確認してみたけど、仲間が文句を言うほど悪くない。
 だから、もしかしたら……という思いが生まれている。
  
「萌歌、凄くね? 本物のK-POPアイドルみたい」
「うんうん! かぁっこいい〜!!」

 桐島くんと心葉は萌歌のダンスに興奮が止まない。
 実は私も萌歌のダンスが好きで夜の練習は度々見に行っている。
 ダンス動画を撮って、彼女はそれを見て自分の苦手な箇所を修正するようになった。
 意見を言ったり、時には意見が割れてぶつかったり。
 今日までたくさん衝突し合ってきたけど、それはもうそろそろおしまいに……。

「毎日夜遅くまで練習してたからね。萌歌は美人でダンスは上手いしカッコ良いから憧れない人なんていないよ」
「で、例のオーディションはいつだって? DATTYの新メンバーに加入できるチャンスのやつ」
「3日後だよ。私と桐島くんが元の世界へ帰る日。……実はその日、萌歌の誕生日でもあるんだ」
「へぇ〜。皐月、ギリギリ間に合ったじゃん! お誕生日をお祝い出来るなんて」

 この世界の心葉は、最初は”堀内さん”と呼んでいたけど、いまはすっかり仲良くなって呼び捨てし合う仲に。
 親友ってどの世界にいても心を通わせていれば親友になれるんだね。

「えっへっへ! だからね、その日に二人で誕生日&打ち上げやろうって話になってるんだぁ〜」
「……俺、呼ばれなかったけど?」
「私も!! 迷惑じゃなければ……お誕生会に行きたいな」
「えっ! 逆に来てもらっちゃっていいの? こんなに急な話なのに……」
「私は萌歌ちゃんがこの世界に残るなら、これからも仲良くしていきたいし」
「俺は逆。最後にバイバイくらいは伝えたいから」
「そうだね。わかった! ダンスが終わったら萌歌に伝えてみようか」

 私たちが仲直りしてから、萌歌は桐島くんや心葉と話すようになった。
 あんな勝ち気な性格でも実は大の人見知り。
 毎日家で喋っていたら親友のように仲良くなった。
 喧嘩をしていたのが嘘のように……。

「ちょっとぉ〜。みんなで楽しく喋ってるけど、あたしのダンスを見ててくれたの?」

 萌歌はタオルで汗を拭きながら私たちの方へ戻って来る。
 私は先ほど録画していたスマホの停止ボタンを押した後、萌歌の隣に行って見せた。

「ほら、上出来だったよ。最後まで録画出来ているから家でチェックした方がいいね」
「ありがと。……で、盛り上がってたみたいだったけど、何の話をしていたの?」
「3日後に萌歌のお誕生会をやるって話。二人がぜひ参加したいって」
「えっ、いいの?」
「俺と堀内はこの日で最後だからパーッといこうぜ」
「私はこれからよろしくの意味も込めて」
「みんな……、ありがとう。でも、家に帰って来るのは夜遅くなっちゃうけど」
「俺は全然いいよ」
「私も大丈夫」
「じゃあ、決まりね!!」


 ――それから1時間後。
 練習を終えた萌歌は花壇に腰をかけてから空を見上げた。
 みんな同じように次々と見上げると、空には星がくっきりと映し出されている。

「星がキレイ」
「ホントだ」
「今日は元の世界も同じ空なのかな」

 この世界の夜空を見るのは、残り三回。
 色濃い思い出が残ってるせいもあって自然と名残り惜しくなる。
 
「最初はここでの生活に苦戦したよな。全部真逆だから」
「まさか水道の蛇口も逆にひねるなんて思わなかったよ」
「えっ、皐月が住んでる世界はそれも逆なんだ」
「太陽だって東から昇るんだよ」
「へぇ〜。本当にこの世界と逆なんだね」
「うん。ここへ来てから心葉が親友じゃなかったことが一番のショックだったよ」

 前日までは親友だった人が翌日から他人になるなんて誰もが想像出来ないだろう。
 実際一人になったら、当たり前のようなことがどれだけ幸せだったか気付かされた瞬間でもあった。
 
「ごめんごめん。……でも、この四人の中で私だけがこの世界の人なんだね」
「心葉……」
「もう一つの世界ってどんなところなのかな。きっとすぐに帰りたくなるくらい素敵な場所なんだよね」

 ”この世界にいる心葉”とは3日後でお別れに。
 最初はただのクラスメイトだったのに、私たちが困ってるところを見て手を貸してくれた。
 私が元の世界に戻れば、もう無関係になってしまう。
 本当はずっとこれからも仲良くしていきたいのに……。

「心葉。あのね、本当は私だってお別れしたくない。心葉さえ良ければ一緒に連れていきたいところだけど……」

 そう伝えたと同時に心葉は首を横に振った。

「ううん……、いいの。私はここで暮らすことが一番幸せだと思っているから」
「俺もそう思う。やっぱり生まれた世界が一番最高だよな」
「……それってさ、ここに残るあたしへのあてつけ? そうとしか思えないんだけど」
「違うよ。ったく、お前は本当に捻くれ者だな」
「言ったなぁ、このやろっ!」
「こらこら、二人とも喧嘩しないで」

 萌歌が冗談交じりで拳を振り上げたので、私は仲裁役に。
 でも、こんな素敵な時間が生まれるなんて思ってもいなかった。

「でもさ、ここへ来てから最悪なことばかり起こっていたけど、いまは最高に幸せ。みんなが手を貸してくれたから帰る手段が見つかったんだよ。私一人じゃ前に進めなかったから、みんなには感謝してる。……それに、心葉と出会えて良かった。向こうの世界でも、こっちの世界でも感謝してる」
「ありがとう。皐月が仲良くしてくれたからお別れするのが寂しくなるよ」
「心葉……」

 ――出会いがあれば、別れもある。
 これから先の人生はその繰り返しだと思うけど、ここで起きた摩訶不思議な事件はきっと一生忘れないだろう。
 
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