弟じゃない弟と、秘密の2人暮らしはドキドキに溢れてる。
キュッと真白が蛇口のレバーを下げて水を止めた。

手を洗うフリをして俯いたままだった私の顔を覗き込んで。

止められなかった涙がポタッと洗面台に落ちた。

「まぁ所詮学校の行事だし、実際は見てくれても見てくれなくてもどっちでもいいんだけど」

棚からタオルを取り出した真白が私の手を取って拭いてくれる。

ぽんぽんと優しく包み込むみたいに。

「…でも瑠璃ねーちゃんが泣いてる理由は知りたい」

「……。」

手を取られたから、気付けば真白と向き合っていて。


「俺のせい?」


か細く力のない声が聞こえた。

首を、振ろうと思った。

違うよって言いたかった。

でもそれより先に溢れた感情に何もできなくて。


涙が止まらない。


「瑠璃ねーちゃっ」

「見られなかったの…っ」

せっかく真白がキレイに拭いてくれたのに、こぼれる涙を拭ったからまた濡れちゃった。 

「見れなかった、…見たくなかったんだもんっ」

目を閉じてでも聞こえてきてしまうから。

「乃愛ちゃんのピアノ…!」

こんな私、知られたくなかった。

知られたらダメなんだって。

「なんで小牧さんのピアノがっ」

「だって…っ!乃愛ちゃんだったら真白のこと誘えるし、一緒にいても変じゃないし…っ」

モヤモヤしちゃってしょうがなかった、こんな私で見られるわけなかったの。

乃愛ちゃんのピアノを聞いたらどうなるかわかってたから。

私が言えずにいた言葉をハッキリと口にする乃愛ちゃんがいたから。


「私もお姉ちゃんじゃなかったら真白に好きだって言えたのかなって…」

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