任侠☆バイオレンスラブ
樹さんのことで少し考えていたけど、両手を合わせてご飯を食べる。
隣に座ってる樹さんは綺麗な所作で黙々と食べ、既に食べ終わっていた。
私も味噌汁を飲めば食べ終わるというところまで食べ進めている。
「それにしても料理上手なんだね。このなめこの味噌汁美味しすぎて3回もおかわりしちゃった」
「あ、俺も。それに他の連中もおかわりしてたから、女将さんが“足りない!”って悲鳴上げてたよ」
「あはは、ありがとうございます。伊瀬さんも矢吹さんもなめこの味噌汁好きなんですね」
食べ終わって団らんしている2人に私の作った味噌汁を褒められる。
2人の言葉に嬉しくなり思わず笑みがこぼれた。
普段は料理しても自分で食べるだけだったから、誰かに褒められることなんてなかったし。
お世辞だとしても、素直に嬉しくなってしまう。
「んー・・・」
「?伊瀬さん、どうかしました?」
私の言葉に、妙な表情を浮かべながら唸る伊瀬さん。
どうかしたのかな?
「いや・・・その呼び方、なんか距離あるなーと思ってさ。樹さんは下の名前でしょ?」
「あ、それ俺も思ってた!“矢吹さん”なんて他人行儀なのナシにしない?」
どうやら私の呼び方が気に入らなかったみたいだ。
樹さんは“兵頭さん”って呼ぶと組長さんと被っちゃうからって、下の名前で呼んでたんだけど・・・。
「じゃあ、お2人も下の名前で呼んだ方が良いですか?」
「うん、そうしてよ。俺らも下の名前で呼ぶから」
「・・・はい、わかりました」
伊瀬さん──いや、新一さんが頬杖をつきながら私のことを見つめてくる。
その圧に負けてOKを出すと、目に見えて嬉しそうにする2人。
「あと、敬語も外してよ。同い年なんだしさ」
「え、うーん・・・わかった」
確かに新一さんは同い年だし敬語外しても平気かな。
そう思った私は新一さんの提案を飲んだ。
いや、さん付けももしかすると言われるかもしれないし・・・新一くんって呼んだ方がいいかもしれない。
「あ、俺も敬語いらないからね」
新一くんに便乗するように、圭介さんも自分のことを指さしながら敬語を外すように言ってくる。
だけど、圭介さんって樹さんより年上・・・だよね。
ってことは、成人してるってことになるし・・・そんな人にタメ口で話すのは抵抗あるな。
「いえ、年上の人にタメ口を使うのはちょっと・・・」
「えーっ!?新一だけズリィぞ!!芽依!俺もタメで!!なっ!?」
さすがに難しいと断ろうとすると、身を乗り出しながら訴えかけてくる圭介さん。
そこまで言われると断れないんだけど・・・どうしよう。
でも、年上の人にタメ口聞くのは良くないし・・・かと言って断るのも悪いし・・・。
「そーやって無理強いすんの良くないですよ、圭介さん」
「んな事ねーだろ!?なぁ、芽依!!」
「あ・・・あはは・・・」
どう返事するべきかわからず、笑って誤魔化す。
困ったな・・・。
「・・・・・・。芽依、食い終わったなら片付けるぞ。来い」
「!!」
今まで黙っていた樹さんが食べ終わった食器を持って立ち上がりながら口を開く。
しかも、私のことを名前で呼んだ。
今まで名前で呼ばれた事なんて1度たりともなかったのに。
「あ、はい!今行きます・・・!」
おぼんを持って樹さんのあとを追いかける。
その時、樹さんは座っている2人の方を見ていた。
「・・・おー、怖・・・」
「わかりやすくなってきたなー・・・アイツ」
座ってる2人の呟きが微かに聞こえてきたけど・・・なんの事だろう?
そう思いながら、厨房へと向かった。