任侠☆バイオレンスラブ
樹さんに連れられてきたのは、樹さんの部屋だった。
え、これ入っていいの?
そう考える暇もなく、問答無用で部屋の中に連れ込まれる。
「・・・おい、芽依」
「はい、なんです──!?」
顔を上げて樹さんの方を見ようとした時、片手で腰を引き寄せられて濡れた髪をすくいあげてキスを落としていた。
えっ・・・えっ・・・!?なに!?
動揺してる私のことなんてお構いなしに、樹さんは私の顔にかかっていた髪の毛を耳にかけながら首筋に顔を近付けてくる。
樹さんの吐息が首筋にあたり、背筋がゾクっとしてしまう。
「あ、あの・・・樹さんっ・・・!?」
私の言葉を遮るようにチュッと首筋にキスを落として来たと思ったら、少しだけピリッとした刺激が走った。
突然のことに驚きを隠せない。
な、なんで急に!?
されるがままになっていた時、私を引き寄せる腕の力が緩んだ。
「・・・・・・こうされたくねぇなら風呂上がったら髪乾かせ。お前はわかんねぇだろうが、風呂上がりの女は色気が増す。・・・ここの連中は女に飢えてる奴が多い。気をつけるんだな」
「え・・・は、はい・・・」
ゆっくりと私から離れながら、ドライヤーを手にする。
「そこに座れ」
「え?乾かすなら自分で──」
「いいから座れ」
有無を言わさないといった態度で私を座布団の上に座らせ、樹さんはその背後へと回った。
髪の毛、乾かしてくれるんだ。
スイッチを入れ、暖かい風が髪にあたる。
髪を軽くすくったり、ハラハラと髪を動かしながら乾かしてくれる樹さん。
ドライヤーさえ貸してくれれば、自分の部屋でやるのに・・・。
そんなことを考えているうちにだいぶ髪の毛が乾いてきた。
乾いたと判断したであろう樹さんはドライヤーを止めるけど、髪の毛を触り続けている。
正確には、首筋が見えるように髪の毛を持ち上げていた。
「・・・あの、樹さん?」
「・・・俺も独占欲強ぇな・・・」
「え?」
「・・・なんでもない」
髪の毛を触るのをやめて、ドライヤーを片付け始める樹さん。
彼の横顔を見ると、さっきの出来事を思い出してしまう。
あんなこと、されたことないからどうしても意識してしまう。
「あの・・・髪の毛、ありがとうございます」
「あぁ」
樹さんはさっきのことを気にしてないのか、特に変わった様子は無い。
それもそうか・・・樹さん、慣れてそうだしな。
意識してるの、私だけか・・・。
「それじゃあ、失礼しますね・・・」
「あぁ」
そのことを少しだけ寂しく思いながら、樹さんの部屋を出た。
部屋を出て自分の部屋に向かおうとした時、曲がり角から新一くんが姿を現す。
「あれ?芽依ちゃん?」
「新一くん、どうしたの?」
「いや、樹さんのこと呼んで来いって圭介さんにいわれ──・・・」
新一くんは話している途中で言葉を紡ぐのをやめて、一点を見つめ出した。
正確に言うなら、私のことを見つめて。
視線からして首元を見ているみたい。
「?どうかした?」
「・・・樹さん・・・だよな、こんなことするの」
「??」
訳のわからない言葉を呟く新一くんに、私は頭にハテナが浮かぶ。
「・・・芽依ちゃん・・・首、赤くなってる」
「え?でもかゆくないから蚊じゃないと思う──」
そう言いかけた時、さっき樹さんにされたことを思い出す。
まさか、あの時キスマークをつけられた・・・!?
もしかしてと思いつつ、慌ててバッと首に手を当てた。
だけど、もう既に新一くんには見られてる。
蚊に刺された跡とキスマークの跡を見間違うような人じゃないだろう。
さっきのことに加え、見られてしまったという恥ずかしさで頬がみるみるうちに熱くなっていく。
「・・・かゆくなくても、薬塗っておきなよ」
「う、うん・・・そうする。おやすみ」
「うん、おやすみ」
新一くんと別れて部屋の中へと入る。
熱くなった頬を冷ますように、深くため息をついた。