任侠☆バイオレンスラブ

第5章 意識


兵頭組にお世話になってから、1ヶ月が経つ頃──寒い3月が終わり、4月を迎えた。



樹さんはその間も私に優しくしてくれている。



だけど、お風呂上がりの一件から樹さんを意識している自分がいた。



ちょっとでも距離が近いと、あの時のことを思い出して恥ずかしくなってしまう。



いくらそういう経験がないからって意識しすぎてる気がする。



「はぁ〜・・・」



部屋にある机の前でため息をつきながら、前に首に跡をつけられた所を押さえる。



今ではすっかり消えたけど、3週間ぐらいはくっきりと残ってしまってコンシーラーで消すのが大変だった。



なんであんなことしたんだろう・・・そう考えながら、物思いにふけっている時扉の前に誰かがたっているのに気が付いた。



「芽依ちゃーん、いるー?」



控えめなノックの音と共に聞こえてきたのは、新一くんの声だった。



立ち上がって扉を開くと、やけに大荷物を抱えている新一くんと目が合った。



「どうしたの?」



「いやさ、暇な人で庭で花見しようって話になってね。芽依ちゃんもどう?花見しない?」



「する!」



「じゃあ俺先に行って準備してるね」



そう言って新一くんは荷物を抱えたまま庭に向かって歩き出す。



私も身なりを整えて庭へと向かおうとする。



「芽依」



名前を呼ばれ、振り返るとそこにはタバコを吸っている樹さんの姿があった。



「はい、なんですか?」



「どこ行くんだ?」



「え、新一さんに庭に行こうって言われて」



タバコを吸いながら聞いてくる樹さんに少しドキドキしながらも答える。



すると、それを聞いた樹さんが少しだけ眉上をピクリと動かした。



「・・・新一と?」



「はい。庭で花見をしようって」



「・・・俺も行く」



さっきのことを包み隠さず話すと、まだ吸えるはずのタバコを消し始める。



そして、私の近くまで歩いてきた。



「え?」



「俺も行くって言ったんだ。いいだろ?」



「あ、はい。大丈夫だと思いますけど・・・」



急なことで少し驚いていると、樹さんは私の隣に並び立った。



みんなの話を聞く限り、樹さんってこういうのに参加しないはずなのに・・・参加するんだ。



「行くぞ」



「あ、はい!」



庭へと歩き出した樹さんを追いかける。



庭につくと、華々しい桜の木がハラハラと花びらを散らせていた。



樹さんと隣同士で縁側に座り、桜を見る。



「綺麗ですね」



「変わり映えしねぇな、ここは」



縁側に座り、膝を立てたところに頬杖をつきながら見ている樹さん。



私は初めて見る景色だから新鮮な気持ちで見れてるけど、樹さんはいつも見てる光景だもんね。



そうなっても仕方ないか。



「私は好きです。こういう庭」



「・・・そうか」



「!!」



樹さんの方を見てみると、優しげな笑みを浮かべて私のことを見つめていた。



その表情に、ドキッと胸が高鳴る。



思わず樹さんから視線を逸らし、気を紛らわせるように桜を見る。



ここ最近、樹さんの柔らかい表情が多いから心臓に悪い。



「芽依ちゃーん、こっち来てみてみなー!綺麗だよー!」



桜の近くで花見をしていた新一くんが声をかけてくる。



ここからでも充分よく見えるけど近くでも見てみたい。



それに・・・樹さんの近くにいると心臓持たないからそっち行こうかな。



「あ、わかった。今──」



立ち上がって新一くんのところに行こうとした時、右手を掴まれた。



何事かと思い、樹さんの方を見る。



「・・・樹さん?」



何も喋らない樹さんに声をかけるけど、私のことを見ずにただ手を掴んでいるだけだった。



「・・・行くな」



「え?」



「新一の所、行くなよ」



ようやく口を開いたと思ったら、私のことを見て行くなと繰り返す樹さん。



「え・・・だけど、新一くんに呼ばれて・・・」



「・・・いいから。俺の傍にいろよ」



「・・・はい」



少し強引に引き止める樹さん──だけど、私にとってはその言葉は刺激が強すぎる。



ドキドキと壊れるんじゃないかと思う程激しく動き始める心臓。



それがバレないように、手を掴まれたまま樹さんの隣に座り直した。



「あれ?芽依ちゃ──。・・・あらら〜・・・独占欲丸出しですか・・・。まぁ、いっか。芽依ちゃんが嫌じゃないなら」


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