いとこの早月くんは関西弁で本音を言う

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 西条先輩に見つかってしまって、ドキドキだったあの日から一週間。

 もうすぐ七月が終わろうとしていた。

 リビングには、封筒やチラシを入れておくレターケースが置いてあるんだけれど、そこに花火大会の案内が入っていることに気付いた。



「そっかぁ、もうそんな時期かぁ……」



 この花火大会が行われるのは海辺で、電車を使わないといけない。

 うちの地域どころか県外でも有名で、毎年たくさんの人が訪れる。

 最後にお父さんとお母さんに連れて行ってもらえたのは、小学三年生の時。

 花火自体の記憶はあやふやだ。リンゴ飴が美味しかったことをよく覚えている。
 
 わたしったら、どこまでも食い意地が張っている。

 そんなことを思いながら、案内をじっと見ていると、お母さんに声をかけられた。



「なぁに? 美奈、行きたいの?」

「うん……せっかくの夏休みだし……」

「えっと、いつ? あー、その日、お父さんもお母さんも仕事だ」

「そっかぁ」



 それなら仕方ないな、と諦めかけたら、いつの間にか早月くんが隣にきていた。



「花火かぁ! 行きたいなぁ。叔母さん、俺が美奈ちゃんと一緒に行くのはあかん? ちゃんと美奈ちゃんのこと守るし」



 守る、という一言に心臓がとくんと跳ねてしまった。



「うーん、中学生二人でかぁ。心配だけど、スマホもあるし大丈夫かな。美奈と違って早月くんはしっかりしてるし……」

「もう、お母さん! わたしはしっかりしてないっていうの!」

「だってそうじゃない」

「むぅ……」



 って、問題はそこじゃない。

 早月くんと二人で花火大会だなんて、それって正真正銘のデートでは……?



「じゃあ、叔母さん、オッケー?」

「いいよ。花火が終わったらまっすぐ帰ってくること。連絡はまめにちょうだいね」

「やったぁ!」



 わたしの心配をよそに、すっかり行くことに決まってるし!



「でも美奈、浴衣どうするの? 小学生の時のじゃ小さいでしょう。新しいの買わないとね」

「えっ、浴衣っ? いいよ、普通の服で行くよ……」

「俺、美奈ちゃんの浴衣見たいなぁ!」

「早月くんもそう言ってるし。美奈、明日お母さんと買いに行こうか!」

「あっ、えっと、うん……」



 話がどんどん進みすぎだよー!

 でも、早月くんに、わたしの浴衣……見て欲しくないことも、ない。

 そんなわけで、お母さんと浴衣を買いに行くことになった。

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