いとこの早月くんは関西弁で本音を言う

03

 早月くんの部屋は、わたしの部屋と同じくらいの広さ。

 けれど、大きな本棚がある分、窮屈に感じた。

 そして、部屋に入ったはいいけれど、どこに座れば……?

 早月くんは先にベッドに腰かけているし。



「美奈ちゃん。隣、ええよ」

「う、うん」



 そっと早月くんの隣に座る。あまり間を開けすぎても変だし、かといってくっつくのなんかもっと変だし。

 結果的に、わたしたちの距離は拳三つ分くらいになった。

 早月くんが言った。



「ほんまに可愛くなったなぁ。びっくりした」

「そ、そんなことないよ?」



 わたしの見た目なんて、中身と同じで平凡そのものなんだけどな。



「俺のこと……あまり記憶ないんやね」

「そうなんだ。ごめんね?」

「ええよ、ええよ。最後に会ったん五歳の時って聞いとうし。しゃあないで」



 そして、早月くんは大きく息を吐いた後、こんな提案をした。



「なあ、中学では、いとこっていうことは内緒にしとかへん? 鈴木っていうありふれた苗字やし、言わんかったらバレへんと思うねん」

「うん、そうだね」



 早月くんがどうしてそう言ったのかは聞かなかった。

 けど、内緒にしておくのはわたしも賛成。

 絶対、絶対、早月くんは目立つだろうし……。

 そんな彼と親せきであることが知られたら、わたしまで注目されちゃうよ。

 わたしは早月くんに言った。



「じゃあ、登校はバラバラね?」

「うん。俺、はよ登校して本読みたいから、先行くわ」



 トントン、と扉がノックされた。お母さんだった。

 二人っきりで息が詰まっていたから、いいタイミングだ。



「美奈、ここにいたの。お風呂入りなさい。早月くんはその後でいい?」

「はい、俺は最後で構わないです」

「じゃあ、わたし、入ってくるね」



 いつもなら、お湯の中でのんびりしているんだけど、お母さんにお風呂長いよって何度か言われているし、早月くんを待たせるのも悪いし。

 わたしはちょっと身体がほぐれたかな、くらいでお風呂場を出た。

 それから、自分の部屋に戻って、クローゼットにかけてあった中学校の制服をまじまじと見た。

 紺色のブレザーにプリーツスカート。赤いリボン。男子は赤いネクタイだったかな。

 制服はこんなに可愛いけど、指定のリュックはやけに大きいしぶっちゃけダサい。

 通学路で見かけた先輩たちは、このリュックにキーホルダーや缶バッヂをつけていたから、わたしもそのうちそうしてもいいかも。

 そんなことを考えながら、ベッドに入った。

 これから、隣の部屋には、早月くんがいるんだ……。

 どうしてもそれを意識しながら眠った。
 
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