いとこの早月くんは関西弁で本音を言う

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 西条先輩と二人きり、という状況に、ちょっと遠慮はあったんだけど。

 イルカショーが始まったとたんに、それが吹き飛んでしまった。

 一斉に水面から飛び上がるイルカたち。派手な水しぶき。くるくる回って可愛いお辞儀。

 わたしは前のめりになって、拳を握りしめた。



「西条先輩! 凄かったですね!」

「よかった、美奈ちゃんいい笑顔。他も回ろうか?」

「ぜひ!」



 最初がイルカショーでよかった。一気にテンションが上がって、その後の展示も楽しく見ることができた。

 途中、西条先輩がどうしてもおごってくれると言うのでソフトクリームを食べて。

 薄暗いクラゲのコーナーでは、ついつい時間を忘れて見とれてしまった。



「美奈ちゃん、クラゲ好き?」

「はい。不思議な形してますよね。まるで宇宙から来たみたい」

「ははっ、そうだね」



 全ての展示を見て回って、水族館を出た。



「美奈ちゃん、もう少し話したいんだけどさ。そこの公園、寄って行かない?」

「いいですよ」



 木陰で涼しくなっているベンチに横並びで座った。

 カナカナカナ……。

 これは、ひぐらしかな。

 しばらく暑さは続くだろうけど、夏休みはもうそろそろ終わってしまうんだ。



「ねえ、美奈ちゃん。実はさ。言いたいことがあって、今日誘ったんだ」

「……えっ?」



 西条先輩のメガネの奥の瞳が、きらめいたように見えた。



「僕、美奈ちゃんのことが好きなんだ。生徒会室で、初めて出会った時からずっと。一目惚れした。他の誰とも付き合ってほしくないから……僕の彼女になってくれない?」



 世界中の音が、一瞬止まったような気がした。

 西条先輩が……わたしのことを、好き……?

 こんな、平凡で、何の取り柄もないわたしのことを……?

 誰かにそうやって、特別に想われていたこと自体は、嬉しい、のかもしれない。

 けど、けど、わたしは……。



「……ごめんなさい」



 そう言うので、精一杯だった。

 次から次へと、涙がこぼれ出てきて。止まらない。

 どうしてこんな気持ちになったのか。自分でたどり着くより前に、西条先輩に言われてしまった。



「そっか。やっぱり、早月くんのことが好きなんだ?」



 わたしはこくん、と頷いた。

 気付いてしまったんだ。

 告白されて、初めて気付いた。

 わたしは早月くんのことが好きなんだって。いとこじゃなくて、彼女になりたいんだって。

 そう、気付いてしまった……。



「美奈ちゃん。色々考えたいことあるよね。僕のことはいいからさ。思いっきり泣くといいよ」

「さ、西条先輩は……どうしてそんなに優しいんですか……わたし、断ったのに……」

「先輩だから。後輩に優しくするのは当たり前でしょう?」



 わたしは両手で顔を覆った。西条先輩は、わたしが泣き止むまで、ずっと背中をさすってくれていた。
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