いとこの早月くんは関西弁で本音を言う

08

 お風呂に入って、同じ部屋の女の子たちでトランプを始めた。

 トランプを持ってきたのは真凛。それが他の部屋の子たちにも広まって、何人か遊びに来た。

 大富豪でボロ負けして、わたしは輪から離れた。

 こういうゲームも、わたしにはどうも向いてないんだよなぁ……。

 喉が渇いたから、小銭入れを握りしめて、ジュースを買いに行くことにした。

 女の子たちは大盛りあがりで、わたしが部屋を出たことも気付いていないみたいだった。



「自販機……どこだっけ?」



 大浴場に行く途中で見た気がするんだけど、探せど探せど見つからなかった。

 そのうちに、中庭のようなところに出てしまって。

 案外、こういうところにあるのかもしれない、とそこへ出ようとした時だった。

 ……誰かいる!



「ごめんね。君とは付き合えない」



 わたしはとっさに扉のかげに身を隠した。

 これは、早月くんの声だ。

 一緒にいるのは、確か二組の女の子だったかな?



「そっかぁ。早月くん、理由聞かせてもらってもいい?」



 これは、確実に。早月くんが告白されて、それを断った場面だ。

 早く逃げた方がいい、という気持ちと。

 そこから先を聞きたい、という気持ちと。

 それらがせめぎ合った結果、結局身動きできずに立ち聞きする形になってしまった。



「理由かぁ。うん……実はさ。俺、好きな人いるんだよね」

「そうなんだ。それなら仕方ないね。これからも、友達でいてくれる?」

「うん。友達ならいいよ」



 二人はわたしがいる方と反対方向に去っていった。

 すっかり見えなくなってから、わたしはその場にしゃがみこんだ。



「う、うわぁぁぁ……」



 衝撃の場面を目撃してしまった。

 まだ、入学して一ヶ月経っていない。

 それなのに、もう告白する女子がいるだなんて。

 そして、それ以上にびっくりしたのが。



「好きな人いるんだよね」



 早月くんのこの言葉。

 これは、本当のコト?

 それとも、断るための言い訳?

 ぐるぐる考えたまま、わたしは部屋に戻ってきてしまった。

 真凛がわたしを見て言った。



「美奈! どこ行ってたのー?」

「自販機……その、喉渇いて」

「でも手ぶらじゃない」

「場所、わかんなくて」

「もう、あたしが一緒に行ってあげる!」



 真凛の後をついて、ロビーまで行った。

 大浴場の方にあると思っていたのは、勘違いだったみたいだ。



「美奈、どうしたの? なんかあった?」

「えっ、何もないよ?」

「本当かなぁ? まあ、何かお悩みがあったら、いつでもこの真凛さんに言いなさい。ねっ?」

「ごめんね……」



 その夜は、なかなか眠れなかった。
 
< 8 / 40 >

この作品をシェア

pagetop