いとこの早月くんは関西弁で本音を言う

09

 校外合宿が終わって帰宅。

 早月くんも、わたしより少し遅れて帰ってきた。



「美奈ちゃん、合宿お疲れ。楽しかった?」



 あんな場面を見てしまった、だなんて絶対にバレちゃダメ。

 わたしは明るい声を出した。



「うん! 山登りはしんどかったけど、部屋でトランプしてね、女の子たちと仲良くなれたよ」

「そらよかったなぁ。俺も楽しかったわぁ」



 本当は聞いてみたい。

 好きな人がいるのかどうか。

 でも……聞いてどうするの?

 これからもこの家で暮らすのに、気まずくなんてなりたくないな。

 お母さんが、キッチンから声をかけてきた。



「二人とも、お帰り! アイスあるよ。着替えていらっしゃい」



 お母さんに言われた通り、部屋着に着替えてリビングのいつもの椅子に座った。

 出されたアイスは、バニラとチョコの二種類だった。

 早月くんが言った。



「美奈ちゃんが選び。俺、どっちでもええで」

「うーん、どうしようかなぁ」



 両方捨てがたい。シンプルなバニラも、濃いチョコも。



「美奈ちゃん、めっちゃ悩むやん」

「あっ、ごめんね? 決められなくて……」

「ほな俺がチョコにしよか?」

「それでいいよ」



 早月くんは、チョコのアイスのフタをとって、スプーンですくって食べ始めた。わたしもそうした。

 バニラも美味しい。けど、やっぱりチョコもよかったかなぁって思っていると。



「美奈ちゃん、一口交換せぇへん? はい、あーん」



 早月くんが、チョコのアイスが乗ったスプーンを差し出してきた。



「えっ、ええっ?」

「ほら、溶けるで。あーん」

「んっ……」



 ええい、勢いだ。ぱくり。



「今度は美奈ちゃんちょーだい」

「はい……」



 あたしがバニラのアイスをあげると、早月くんは満面の笑顔。

 これって、これって、間接キスだよね?

 早月くん、わかってる? わかってない……?

 そんなわたしたちの様子を見て、お母さんが言った。



「二人とも、すっかり小さい頃に戻ったねぇ。お菓子分け合いっこしてたんだよ」

「うん、俺も覚えとうよ、叔母さん。美奈ちゃん優しかったなぁ……いっつも多めにくれた」

「そうだったんだ……?」



 だったら、早月くんにとっては小さい頃の延長ってことなのかな?

 わたしのこと、ただのいとことしか思ってないから、こんなことができちゃうのかな?

 それは、他の誰よりも、わたしが早月くんと仲が良いということなのかもしれないけれど。

 どこか、寂しい気持ちもあったんだ。
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