ラストウェディング ー余命半年、極道の花嫁になりましたー
「小桃さん、だっけかな」

「はっ、はい!」

突然名前を呼ばれ、思わず素っ頓狂な声が出る。結くんよりも立場が上の人、ともなれば自然とこうなる。

「至らぬ点ばかりだったと思うが、結を好きになってくれてありがとな」

「いっ、至らない‪点なんて、とても……っ、私の方こそ……、結くんには感謝しかないです」

「……」

数秒沈黙が続いて、何か変なことを言ってしまっただろうか、と反省していると。

「いい子じゃないか」

「はい。いい子です」

またさっきと同じようなやり取りを繰り広げた2人。

2人ともぴくりとも笑わず、ずっと重苦しい空気で会話をしている。2人の通常はいつもこうなのだろうか。

「組長。時間です」

「あぁ」

組長さんのお付きの方であろう方がスケジュール帳のようなものを開いて組長さんに告げる。

「会合あるから、俺はもう行くな」

この後の予定があるのか、もうどこかへ行ってしまうみたい。

「はい。今日はお時間作って頂き、ありがとうございました」

「いや」

再び私の方へと歩み寄ってきた組長さん。

「今日は会えて嬉しかったよ。少ししか時間が取れず申し訳ない。小桃さん」

「あっ、いえ…っ、こちらこそ……」

そこで初めて、組長さんの口角が僅かではあるけど上がって。結くんと似ているな、と感じた。

「結婚おめでとう。末永く」

それだけ言って組長さんは部屋を出ていった。
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