ラストウェディング ー余命半年、極道の花嫁になりましたー
懐かしい、と呼ぶにはまだ早いかもしれないけど、でもやっぱり懐かしい気持ちになった。

時刻はもうすぐ18時を回ろうとしている。

「あっ、もうこんな時間ですね…っ、私ご飯の支度を​────」

「…っ」

後ろからふわり、と覆い被さるようにして抱きしめられて思考が停止する。

首元に回された結くんの腕に、引き寄せられるように手を添えた。

「おかえり」

耳元で囁かれるように落とされる好きな人の声。

「…っ」

そのセリフを誰かに言われる日がくるなんて。
1年前の自分は思いもしなかった。

自分の帰りを待ってくれている人がこの世にいる、ってなんて嬉しいことなんだろう。

「ただいま、です…」

初めて言うセリフだからまだ言い慣れない。

結くんはいつも私にたくさんの‪”‬はじめて‪”‬をくれる。

「俺もやる、って。これ切ればいいの?」

「いやっ、大丈夫です! ソファに座っててください…っ」

「でも…」

また何か言いかけた結くんの背中を押して、私はソファまで誘導した。

「今日は結くんの誕生日のお祝いをしたいんです。出来てからのお楽しみです」

「そう、なのか…、分かった」

少し不服そうな顔をしたものの、ちゃんとソファに腰掛けて待っていてくれる結くん。
< 148 / 183 >

この作品をシェア

pagetop