ラストウェディング ー余命半年、極道の花嫁になりましたー
ご飯の支度に取り掛かろうとしたらこれだ。
きっと私の体調を気遣って手伝ってくれようとしたのだと思うんだけど、今日は私の中で結くんの誕生日のつもりだから、主役に手伝って貰う訳にはいかない。

キッチンに立って、ソファに腰掛ける結くんの後ろ姿を確認してから、私は調理に取り掛かった。

コンコン、と野菜を刻んでいる時。
煮込んでいる時。
スポンジに生クリームで飾り付けしている時。
出来上がったものをお皿に取り分けている時。

全ての瞬間が、愛おしくて仕方なかった。

妻らしく…、料理を作って。夫の帰りを待つ。そんな日常がこの先もずっと続いて欲しい。儚く今にもどこかへ消え入りそうな願いを幾度となく胸に馳せた。

「お待たせしました。遅くなっちゃいましたよね…っ」

出来上がったご飯を食卓に運ぶ。

食卓の中央には、フルーツがこんもり乗ったまあるいケーキを置いた。

チョコプレートには手作り感満載の不器用な字で【結くん 誕生日おめでとう】と書いた。チョコペンで文字を書く、というのは案外難しくてあまりに下手くそな字になってしまったから笑われないか心配してたけど、「おぉ、これすげぇな。いつの間に注文したんだ」と言ってくれた。

どこからどう見ても素人が作ったものなのに…
結くんってそういう冗談言う人だったっけ?冗談なのか本気なのか、ホントの所は分からないけど。

それから2人でご飯を食べた。
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