ラストウェディング ー余命半年、極道の花嫁になりましたー
暖かくてゴツゴツした手の感覚が胸から全身にぶわっ、と広がっていく。

「私の鼓動……、分かりますか」

「あぁ」

「結くんといるといつもこうなんです」

いい意味でも。悪い意味でも。

何度あなたにドキドキさせられたか。

「なんだかいつもより早くって…。少し息苦しくなってしまうんです」

そう言った時。

結くんの表情が少しだけ曇った気がした。長いまつ毛を伏せて、考え込むような顔をしている。

「結くん?」

「あのさ」

「?」

「最初…、小桃のこと拉致った時のこと。ごめんな」

「え…っ?」

「心臓。…売り飛ばすとか、俺言っちまっただろ。たとえ脅しでも、…あれは言われて嫌だったと思う。悪かった」

「いえ…、そんな…。もう過ぎたことです。気になさらないでください」

あの時はすごく怖かったけど。

けどもう大丈夫。

結くんの手の甲に自分のひらを重ねる。

結くんと今を生きてる、ってもっと実感していたかった​───────…

「結婚式……楽しみです」

誰かと結ばれる日が来るなんて。

思ってなかった。

「だな」

これからもずっと結くんの隣で生きていたい。

無理な願いだとしても、私は心からそう思った。
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