潮風がシャボンに惚れたら
 小さな港街で下働きをして暮らす彼女『ミミー』は、元は人魚だった。

 昔陸や王子を夢見た姫君同様に彼女も陸に憧れ、まだ見ぬ人や物を夢見て人間の姿になった。
 特筆するほど特徴の無い彼女に科せられた“代償”は、海水を全く浴びられなくなるということ。

 海水を浴びれば身体はすぐに海の泡。
 ミミーは忠実にその教えを守っていた。
 
 小柄で、幼く見えてしまうほどあどけない表情。透けるほど色素の薄い髪や肌。
 しかしひ弱そうで儚げな雰囲気の彼女はこの港街での印象は薄く、周りからはあまりに目立たず細々と暮らしていた。


 そんなある日、海賊の一味がこの小さな港街に降り立つ。

 停泊したその日も気に入った相手を次々と宿に連れ込んでいた彼らだったが、とうとう街の下働きの娘たちにまで目をつけた。


「おいっ!!」

 ミミーは突然そう荒々しく声をかけられ恐る恐る振り返ると、それはまだ若い、先ほど街中に通達がきた海賊船の乗組員。

 日に焼けて浅黒い肌。
 乱雑にバンダナに纏められた長髪と、まだ他より整って見える顔の左目には眼帯。
 スラリとした背に、程よい肉付きの手足がツギハギの衣服から覗く。
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