潮風がシャボンに惚れたら
 朝日が昇る。

 ミミーは初めての疲れと痛みに、未だ彼とともにベッドに身体を横たえていた。


「お前って、まるで前に入れられた泡風呂みてぇで温けえ……!なんか、泡みたいに壊れそうなのに温か、みてぇな!!」

 しかしそれを聞いたミミーは心穏やかなはずはない。

「……泡なんて、嫌です」

 口を尖らせそっぽを向く。
 ミミーからすればせっかく人間になれた身だというのに、海水を浴びれば冗談ではなく事実その身は泡に変わるのだから。

「あ、悪かったって。でも、お前は抱き締めると“気持ち良い”って感覚になるんだぜ」

 そう返され改めて感じる。

 海の中では味わえなかった、抱き締められるという感覚。

「……はい、ハレカゼさんの腕の中も気持ちが良いです」

 すると彼の目は輝き出した。

「そうだろう!?……こんなコトなら宿の大風呂も、コイツと一緒に入れるようしてくれてりゃあなあ!!」


 たった三日間の停泊予定の海賊船。

 彼は下っ端にも関わらず良く働き、二日目も暇さえあればミミーのもとへ顔を出す。
 ミミーも喜んで彼の訪れを待ち望む。

 しかし彼の仲間たちは、他の相手へ他の相手へと乗り換えるでもなくミミーにばかり執心する彼に呆れていた。

「馬鹿なやつだな。そんな執心したって、海賊の命はいつ散ったっておかしくねえ。女の方だってすぐ忘れるだろうに……」

「アイツはまだ本当にガキのままなんだよ。“大人の相手の仕方”ってのを知らないのさ」
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