潮風がシャボンに惚れたら
 彼は出て行った。

 ミミーは絶望し、力なくその場に座り込み泣いた。
 せっかく自分とともに生きてくれるかもしれない相手を傷つけ、遠ざけてしまったと思った。

 自分には何も無い。
 海の中を漂うだけで価値を見いだせなかった今までの生活や仲間を捨てて、地上へ来た自分。
 夢見た地上でも変われない毎日に、自分が本当に泡に変わったのだと思うほどだった。

 自分にとっては、それを変えてくれた彼との二日間。

 次に彼が来られるのはいつなのかわからない。
 まして彼は海賊。明日には命があるのかどうかすら。

 そして間もなく二日目の夜も明ける……



 ミミーは港の誰も立ち寄らないような端で、去りゆく海賊船を見つめていた。

 海賊たちと時をともにした者たちは、先ほどまで友よ恋人よと別れの船出の祝い、そして日常へ帰っていく。

「忘れないで……私を」

 ミミーは一人、海の方へ一、二歩進み出す。
 そしてゆっくりと目を閉じ、身体を海へと投げ出した。
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