わたしのせいしゅんものがたり
「ももち…」
帰りがけに声をかけてきた。彼女の場合、人見知りなのですごい小さい声でささやいた、に近いと思う。
「理恵ちゃん、どうしたの?」
遠くの方で穂乃香が「ももち、理恵ちゃんなんかと話してるよ」と言っているのが聞こえた。
入学式早々、理恵ちゃんだけは浮いていた。そして孤立してしまったのだった。だけど私はあまりそういうことには疎かった。
「ももち暇?」
「え、帰るだけだけど」
「じゃあ少し付きあってくれない?」
「いいけど」
穂乃香たちをちらりと見ながら梨沙は理恵ちゃんとともに第一職員室へと向かった。
「私、英語の村上先生のことが好きになっちゃったんだ」
「え!?」
「入学式の日の一目惚れ。ももちと同じだよ」
「や、私は別に一目惚れとかじゃないけど」
「でもいい雰囲気だったでしょ?」
「え、まあ…」
大桃から声をかけてきたんだし、一目惚れとかではないと思う。その前に、大桃との間に存在している関係が何であるかさえわかっていないのだ。理恵ちゃんは勝手に恋愛感情であると決めつけているらしい。
「ほらあそこに村上先生がいる。見ての通りイケメンでしょ?ももちは面食いじゃないよね」
「…メガネしてるから?」
村上先生と大桃を比べてイケメンかイケメンじゃないか、ということらしい。村上先生はたしかに甘いマスクかもしれないけど、でも、大桃には村上先生にはない独特な魅力があるのだった。
「そう、メガネしてるから。でも好きになるのは人それぞれだからいいんじゃないかな?」
「うん」
村上先生を眺めてるだけで胸が熱くなるらしい。そういえば梨沙も大桃と話しているときは胸がドキドキしていた。もしかしたら恋なのかな?

3
家に帰って、電話番号を登録するとショートメールでラインのQRコードが送られてきたので、ラインの友だち登録をした。 


『大桃です。よろしくお願いします。今日はありがとう』
『小峰梨沙です、こちらこそよろしくね。今日は楽しかったよ』
何気なくラインをするだけでも楽しくなる。
「また会いたいな」
梨沙はそう思った。


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