わたしのせいしゅんものがたり
部屋には私を含め7人いた。
梨沙、穂乃香、瑠奈、木曽ちゃん、新垣樹里ちゃん、小川理沙ちゃん、アンドリューの7人。
「畳とベッド、誰がどこで寝よっか?」
梨沙と同じ名前の理沙ちゃんが言う。
この部屋は畳とベッドが共存している和洋折衷な部屋だった。
「ももち、ベッドで寝る?」
理沙ちゃんに言われて「あ、うん」とうなずいた。
「じゃあ、私もももちの隣のベッドで寝ようかな」
と言ったのは瑠奈。
「じゃあ、ももちと瑠奈ちゃんがベッドで、あとの5人は畳ってことで」
ひとまず決まった。
「そういえばももち、どこに行ってたの?」
穂乃香に聞かれて梨沙は「大桃と会ってた」と言った。
「わー!入学早々男子と逢い引きかあ!」
理沙ちゃんが目を輝かせながら言う。
「なに、なに、なに、ももち!その男子のこと好きなの?」
アンドリューもつぶやく。
「好き、っていうか。何なんだろう」
好き、という言葉をつぶやいた途端、涙が頰をつたった。涙が次から次へと流れてくる。
みんなびっくりしている。
「…今日はもう会えないのかなあ」
「ももち…」
「会いたいよお…」
やがて声を出して泣くほどになった。
すると理沙ちゃんが梨沙の肩を抱いてくれた。
「わかるよ、その気持ち痛いほどわかるけど。男子と女子、部屋分かれてるし。それに花岡学園って規律が厳しいじゃん?だから我慢しないとさ」
理沙ちゃんが言った。
「あたしも他のクラスに好きな男子いるけど我慢してるよ〜、本当は会いたいけどね〜」
アンドリューも慰めてくれた。
「うん、わかった」
梨沙は涙をふいた。
そしてそうこうしているうちに夕食の時間になった。
3夕食はバイキング形式だった。
梨沙はいつもよりお腹が空いていなかった。
「ももち、それくらいしか食べないの?」
木曽ちゃんが心配してくれた。
「うん、なんかいつもよりお腹が空いてないみたい」
「生理とか?」
「あ、うん。そう、生理なんだ」
とっさに梨沙は嘘をついた。実は梨沙は小学校や中学校の修学旅行のときもそうだったけど、泊りがけで行く学校のイベントが苦手だった。家が恋しくなる分離不安という症状が出る。今回もそうみたいだった。
やがて過呼吸になってきた。
「はあ、はあ」
「ももち…」
瑠奈も心配している。
そしたら、隣で食べてた穂乃香が立ち上がった。
「ももち、このままじゃいけないよ。先生に言いに行こ!付き合うから」
「…うん」
情けないと思いながらも大島先生のところへ行って、部屋に戻らせてもらった。
部屋に着くと穂乃香が生理用ナプキンを差し出した。
「一応私も持ってきてたんだ」
はい、と言って梨沙はそれを受け取った。
「ありがとう」
「や、私もさ昔、白血病で入院してたことあって、だから大変な気持ちは誰よりもわかってるつもり」
「白血病だったんだね」
「今はもう治ったけどね」
穂乃香は一見きつそうに見えるけど、さりげないやさしさがあるなあと梨沙は思った。
「今日はお風呂入れないから先生やみんなにそう伝えておいて」
「うん、わかった!じゃ、一旦私戻るわ」
「うん」
そして梨沙はベッドに横になった。

4
少し寝たみたいだった。
みんなお風呂から帰ってきていた。
「ももち大丈夫?」
隣のベッドに横たわった瑠奈がつぶやく。
「うん。生理だいぶよくなったみたい」
「そっか、よかった」
畳組の5人は布団を敷き始めていた。
「私、ももちと友達になれてよかったよ」
「え、いきなりどうした!?」
「だって宝塚ファンな私を受け入れてくれたんだもん」
「ああ、そっか」
瑠奈は今どきの学生としては珍しく宝塚が好きな子だった。
「ちぎちゃんの話も聞いてくれるし」
「早霧せいなさんのことね」
「本名も覚えてくれてるね」
瑠奈は苦笑した。
「木曽ちゃんもほのちゃんも貴重な友達だし」
「だね!」
そこで睡魔が襲ってきた。
「おやすみ、瑠奈」
「おやすみ、ももち」
今日は色々なことがあった日だった。
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