側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜


「……あれ?私、どうしたんだっけ」

 気が付くとベッドの上で横になっていて…何が起こったのかとても理解できずにいた。身体を起こして周囲を見渡してみると…いかにもお姫様仕様の内装の部屋が視界に入って思わず身構える。

「っ?!側妃様っ、目を覚まされたのですね!」

──側妃様?

 扉の近くで立っていた若い女性が慌てて飛んできたことに驚き、何度か瞬きを繰り返す。

「私、側妃様にお仕えすることになりました侍女のアルファと申します。目覚めたばかりでご不安だとは思いますが、取り急ぎ…殿下へのご報告と、侍医をすぐに呼んで参ります!」

 バタバタと部屋を出ていったアルファと名乗る女性。何がなんだか分からず、放心している私の膝の上に…何処から侵入したのか一羽の青い小鳥がちょこんと羽を下ろした。

【混乱しているところ申し訳ないんだけど、時間が無いから…手短に要件だけ伝えるね?】

誰もいないはずの部屋に、突然少年を想わせる可愛らしい声が響いて…思わず首を動かし周辺を確認してしまう。

【覚えてない?あの日、山で僕に出会ったこと】

 パタパタと羽を動かしている目の前の小鳥を見て、話をしているのがこの鳥なのだと理解したと同時に…脳裏に映し出された過去の”記憶”。瞬きする度にページが更新されていくみたいに…これまで自分が歩んできた過去が一気に脳内に刻み込まれていくのが分かった。



──長谷川 愛茉。
 18歳になったばかりの日本の女子高生。都内で母親と二人暮らしだが、母は自由人であまり家に帰ってくることは無かった。そのためバイトを掛け持ちながら自分なりに生計を立てて生きていた。

 高校受験に失敗して私立の女子校に通っていたので未だに彼氏が出来たことがなくて、死ぬ前に一度くらいは心から愛せる人に出会いたいと思っている……って、、


【思い出したかい?自分の…最期の瞬間を。】

 小鳥に問われ、前世で自分が最期に見た光景が脳裏に浮かび上がり……途端に胸が苦しくなった。

「友達の彼氏を奪ったと、誤解されて……」

 バイト先のコンビニに客として通っていたという友人の彼氏が、私に好意を抱いたことを理由に友人に別れを告げたことがきっかけで…学校で仲間はずれにされ、修学旅行先で山登りをしていた際に、、

【悪女に突き飛ばされて滑落。そこで亡くなった君をこの世界に転生させたのが─…僕。】

 転生という言葉に目を見開いたが…”異世界転生”というものを私はわりと信じている方だったので、特に悲観するようなこともなく受け入れようと前向きに捉えた。

【この世界のことは、君もよく知っているはずだよ。時間がないから、記憶を呼び覚ます手助けをさせてもらうね】

「……え…?」

 聞き返した時には既に羽を広げて飛び立ち、今度は私の頭の上に乗っかった小鳥さん。その直後…小さなクチバシを使って私のコメカミの辺りをツンツン、と何度か突っついた。


 すると…空っぽだった記憶の引き出しに、どんどんエピソードが収められていくように。頭の中に入り込んでくる記憶の欠片たち。

 それはこれまでこの世界で生きてきた”私”の記憶なのだろうと悟った。


エマ=ジークレイン
 それがこの世界での私の名前。親無き子として施設で育ち、18歳の誕生日の日にバシレウス王国の王太子…ギルバート殿下の四番目の側妃として迎え入れられるはず…だった、、?

 この世界での自分自身の生い立ちや、置かれている現状を把握して困惑した。

 ──まさか、この世界って、


【そのまさか、だよ。前世で君が愛読していた本と同じ世界。その中の登場人物の一人に転生したんだ。】


 前世で一度、大ケガをして病院で入院していたことがあった。その時病院の図書室で見つけたラノベ小説にどハマリして、全巻買い揃えるほど大好きだったのだが。

 原作者が休載すると宣言してしまい、ずっとモヤモヤ展開のまま先を読むことが出来ず…そのまま生涯を終えてしまった私。


【物語の続きは、エマが自分で確かめてみて。今世はきっと幸せになれるよ。】

「え……ちょっと、待って!まだ聞きたいことがっ」

 衝撃の事実だけを告げ、窓の外へと飛び立っていってしまった青い小鳥。ベッドから降りて窓際に近づき、飛び立った小鳥の姿を目視で探していると、すぐそばに置いてあった姿見に映る自分の姿を見つけ…思わず目を見開いた。

 ──転生しても、顔はそのままなんだ?

 服装はよく前世で目にしていたファンタジーアニメに登場するような洋装のドレスを着ているが、顔は前世で毎日見ていた長谷川愛茉と同じ。少しタレ目がちの二重まぶたの瞳。ぷっくりとした唇は男性には好まれたが同性からは何故か不評だったのを記憶している。違う点をあげるとすれば…髪色がミルクティーのようなベージュ色に変わっていることくらいだろうか?

 見慣れない自分の姿につい見入っていると、部屋をノックする音が聞こえて慌てて振り返った。


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