側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜

「……ギルバートだ。失礼する」

 部屋の外から聞こえてきた低い声。

 夢にまで見た小説の中のヒーローと対面する日が来るなんて…思いがけない二度目の人生に感謝しつつ、息を飲みながら彼が入ってくるのを待った。

 部屋に入ってきた彼は、窓際に立っている私を見て険しい表情を浮かべた。

「目が覚めたばかりだろ?まだ横になっていた方がいい」

 まさか、そんな優しい言葉を掛けられるとは思っていなかったので大人しく彼の言うことに従いベッドへと戻る。

「……身体の調子は?」

 ベッドの傍にある椅子に腰掛け、私に問いかける彼の瞳を見ているだけで息が止まりそうになる。

 ──想像通りの美男子っ!!

 漆黒の髪に、シルバーの色をした瞳がよく映える。シャープな輪郭と薄い桜色の唇…切れ長の目を隠すように流れる前髪は彼の艶っぽさを際立てていて…まさに感無量である。

「……エマ嬢、聞いているのか?」

 ハッと我に返り、深々と頭を下げて彼に挨拶をする。


「殿下、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。」
「挨拶など必要ない。それより…儀式の最中に気を失ったことは…覚えているか?」
「……儀式、ですか?」
「ああ、婚姻の儀……所謂”吸血の誓い”。」

 ──そういえば、そうだった。

 大好きなラノベの世界に転生できて浮かれていたが、とても重要なことを一つ忘れていた。

 この世界の主な生体は”吸血鬼”であり、人間である私たちは彼らにとって一種の捕食対象。彼ら吸血鬼の好む血液には色々とジャンルがあり…その中でも上質な血液を持つ家系の人間は吸血鬼達にとても大切に扱われている。

 吸血鬼が生涯を共にする人間の番を見つけ結ばれることで子孫が生まれる。そうしてこの世界は成り立っているのだ。10歳の誕生日に自分が吸血鬼か人間なのかを知る国家儀礼のようなものを受け、その後の生き方が決まるという仕組みだ。

 吸血鬼だと認定された者は、専門の機関に送られ、吸血鬼としての生き方を学び始めることになる。中には魔力を身につける者もいて、特殊な能力を持つ吸血鬼は王都で暮らすことを許されている。

 一方で人間だと認定された者は、学校に通い学力を身につける。その内容は前世の私…長谷川 愛茉が通った学校の内容とほとんど変わりは無い。医学の道に進んだり、美容の道へ進んだり、、進む道は自由だ。

 ──しかし重要なのは、この世界で国を治めているのは吸血鬼たちであるということだ。

 今の国王陛下も、もちろん吸血鬼である。そして…次期国王である王太子…ギルバートも同じく吸血鬼だ。しかも彼は歴代の王の中でもかなり強力な魔力を持っているとされていて、彼の子を授かる妃となる王太子妃選びはかなり重要視されていた。

 そのため、妃を一人に絞ることなく側室として複数人用意し…とにかくギルバートの血を受け継ぐ子を一人でも多く誕生させよ、っという国王陛下の命令により集められた側室のうちの一人が私……エマ=ジークレインというわけだ。

 王太子妃が決まっているわけでもないのに既に”側室扱い”されているのには理由がある。っというのも彼、ギルバートには既に生涯を共にしたいと考えている人間の番が存在するのだ。

 第一側妃であるマリアンヌ=リフレイン。
 彼女こそがこの物語の絶対的ヒロインであり、冷酷な王太子が寵愛する唯一の姫君。強力すぎてギルバート自身でも制御出来ない程の魔力を唯一、抑制することが出来る彼女の”無償の愛”こそが真実の愛だと…民の間でもラブロマンスとして語られているほどに、2人の恋仲は有名な話だった。

 ただ…マリアンヌは身体が弱く、子を身ごもることは出来ても出産するほどの体力はないと医師に言われているらしく。それを理由に”王太子妃”として認められないという何とも切ない問題が生じ…側室制度が設けられたのであった。

 つまり言ってしまえば、側室の誰かがギルバートの子を授かり無事に出産を終えれば…その子をマリアンヌの子として迎え入れ、彼女を王太子妃にするということが考えられる。

 前世で小説を読んでいた時は客観的に見ているだけで、ヒロインのマリアンヌに同情し切ない気持ちでいっぱいだったが…実際に側妃サイドに転生してみれば”そんなバカな話があるか!”と反抗してやりたい気持ちでいっぱいになった。




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