側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜

「おい…聞いているのか?」

 再びギルバートに話し掛けられハッと我に返った。

「体調が元に戻ったなら、このままここで婚礼の儀を続行させてもらう」
「……はい…?!」
「お前との儀礼を終えるまで、俺は他の妃を抱けない。」
「えっと…それはつまりっ、」
「お飾りの妃の相手はさっさと済ませて、正妃の元へ帰りたいと言ってるんだ。」

 ──そんなストレートにはっきり言わなくても!!

 ムッとして…立場も忘れ、目の前のギルバートを思い切り睨みつけてしまった。っというのも前世の私はただの女子高生。気の合わない異性相手に媚びを売ったりするような女子ではなかった。

 しかし…いま目の前にいるのは国を治める王家の血を引く吸血鬼。無礼な態度をとった私に怒りを抱いた様子の彼は─…

「甘やかしすぎたな…少し躾が必要みたいだ。」

 シルバーの色をした瞳をキッと見開き…その瞳の色を炎のような真っ赤なルビー色に変えた。

 ──これが本来の姿?!推しが尊くて既に愛しい!!

 彼が魔力放出モードに入ると瞳の色がチェンジすることは小説を愛読していた私は既に承知済みだ。なので恐怖よりも実際にその姿を見られた喜びの方が断然強い。

 ジッと彼と目を合わせても怯まない私を見て苛立ちを覚えたのか、急に立ち上がったかと思うと…瞬きをした直後にはもう既に私の上に覆い被さるように乗っかっていた。

「優しくシてもらえるなんて思うなよ?」
「あ…あの、私、初めてなので、」
「当然だ。純潔であることは側妃の最低条件だからな。」
「……では、なぜ、、」
「お前が側妃に選ばれたのか…その理由が知りたいか?」

 グッと顔を近づけ、私の顎に手を添えたギルバート。至近距離で見る彼のご尊顔の美しさに息を飲む。

「顔が好みだった」
「……え…」
「重要なことだろ?好みじゃない娘を何人用意されても、俺の気が乗らなければ子作りなんて出来ない」

 ──この男、顔がいいだけで中身サイテーじゃん!!

「では…他の側妃様を選ばれたのもっ」
「ああ、外見で選んだ。既に初夜は済ませたからしばらく顔を合わせることは無い」
「……懐妊されていないと分かった後、再び身体を重ねるということですか」
「察しがよくて助かる。その通りだ。無駄な馴れ合いは避けたい。側妃に構う暇があるなら正妃と過ごす時間に当てたいからな。」

 生理が来て妊娠していないと分かれば、もう一度抱いてやってもいいが…それまでの期間は寵愛しているマリアとイチャイチャしたいので放置させてもらう。って…要するにそういうことですよね?

 ───やっぱクズだな、この男っ!!

 まだ正式に決まっているわけでもないのに”正妃”という言葉を使うのは、一線を引いた関係性を築きたいという彼の意思からくるものだろう。

 ルックス抜群の夢にまで見た大好きな小説のヒーローに処女をもらっていただけるなんて…そんな幸せなことは無い。とはいえ…前世でも彼氏が出来たことの無い私。甘い言葉を囁かれながら誰か一人に大事に思われたいという乙女心もまだ死んではいない。

 マリアンヌの代用品として純潔を捧げるのは…少し切ない。

「今更断るなんてことは許されない。そんなことをすればお前の育った施設にいる者たちは連帯責任としてこの瞬間を持って罪人扱いだ。明日には皆、天に召されることになるだろう」
「……王家の血を引く方の心は冷たいのですね」
「今に始まったことでは無い。歴史は繰り返される…例外は存在しない」
「んっ、、」

 そのまま顔を近づけて来た彼に唇を奪われ…呆気なく私のファーストキスは終わりを告げた。ファーストにして超濃厚な深いキスは身体の奥がジリジリと疼くような…そんな変な気分になるような、甘い甘いキスだった。

 やがて、唇が解放された頃にはすっかり息があがってしまい肩で呼吸をする私を見てギルバートは意地悪そうな笑みを浮かべる。

「随分と物欲しそうな顔してるな…その調子で俺を煽って、楽しませてみろ。気が乗れば抱いてやる」

 ──上から目線の最低男!!

 っと思うのに…心とは裏腹に、暴かれていく身体はとても正直で。彼が触れる度に熱を帯びて…さらに強い刺激を求めて縋ってしまう。

「まだ弱いな。この程度じゃ…吸血しても意味が無い」

 吸血鬼と人間の子作りというのは少し複雑で。ただ身体を重ねればいいという訳では無い。無事に繋がることが出来た後、感度が頂点に達した頃合いを見て吸血をすることにより子を授かれる確率が格段に上がる。っと言われている…と小説の中で読んだ知識しかないのだが、実際そうなのかは知らない。

 既に前世では味わったことの無い抑揚感に包まれ、この先の展開を期待しつつある自分を情けなく思った矢先…私に触れていた彼の指先がピタリと静止した。

「……気が変わった。」
「…え……」
「この俺に刃向かった罰だ。お前に王家の子種を与えるのは辞めにする。」
「殿下っ、」
「俺をその気にさせる方法でも考えて日々を悶々と過ごせ。建前上、他の側妃と同様に月に一度だけ会いに来てやる。」

 再び私の唇に自身の唇を重ね、しばらくキスを交わしたあと、、

「─…俺を誘惑して見せろ、エマ。」

 これ以上何もしない、っとでも言うようにあっさりと身体を離したギルバート。不敵な笑みを浮かべながら呼吸を乱したままの私を見下ろしている。

「婚礼の儀はこれで終了だ。籠の中へようこそ。」

 ルビーの瞳がシルバーに変わった後、こちらに背を向けて出ていってしまったギルバート。
 熱く火照った身体が冷めるまでしばらく時間がかかったが…側妃として自分は失格だ、と言われたような今の状況に危機感を覚え……頭を抱えた。

 前世で読んだ小説の内容にこんな展開は描かれていなかった。そもそも私というキャラクターは存在せず、側妃もヒロインを含めた三人だけだったはず。つまり、エマ=ジークレインというキャラクターは完全オリジナル。
 私と関わるギルバートの姿は本来描かれていない裏設定のようなものであり…攻略方法などまるで分からない。


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