側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜
その後、王妃様の元へギルバートと共に訪れたのだが、どうやらそれはまずかったみたいで。
「あら…ギルバートと一緒だったのね?」
「ご挨拶を」
スっと頭を下げたギルバートに続いて私も頭を下げる。
「堅苦しいのは辞めにして、早く入りなさい。ギルバートも…と言いたいところだけれど、今日は側妃達とお茶を楽しみたくて開いた茶会なの。貴方がいると皆、心が休まらないだろうから席を外してもらえる?」
──他の側妃達も一緒だなんて聞いてない!!
顔を上げるタイミングが分からず俯きながら悶々としている私の肩にギルバートの手が乗っかったことで、ゆっくりと顔を上げる。
「もちろん、そのつもりです。ただ…こちらのエマ嬢は先日の婚礼の儀の際の身体の不調が残っているようなので、早々に退席させるようお願い申し上げます。」
一体なんの真似…?っと疑いの眼差しを向ける私に目を向けることなく、すぐに退室してしまったギルバート。敵陣に一人残されたような孤独な気持ちを抱えながら、気まずい女子会へ参加することになったのだが…
「ギルバートが側妃のことを気にかけるなんて。あの子も大人になったのね」
一際目立つ装いに、キラキラと輝くティアラを頭に乗せている女性こそが王妃…カルラ様なのだろう。息子の成長に感動しているのか、涙ぐんでいる様子を見ると…こちらも胸が温かくなる。
「第一側妃であるマリアンヌ様にしか関心が無いのだと思っておりましたので。とても意外です。」
「第四側妃様も殿下のお気に入りなのですね。羨ましい限りにございます。」
続いて口を開いた女性たちは…おそらく第二、第三側妃の姫君たちなのだろう。茶会という名の女子会が始まってまもなく、既に嫌われた模様。嫉妬まがいなことを言われているが…私はまだギルバートと初夜を迎えていない。なんて事実は恐ろしくてとても口にできないが。
「マリアンヌは今朝も具合が悪かったみたいで。茶会には出られないと報告を受けたところよ。残念だわ」
ガッカリした様子の王妃にすぐさま第二、第三側妃たちが機嫌取りのような内容の浅い話しを繰り広げる。そんな、なんともつまらない茶会。既に面識のある様子の三人の話しを、ただ相槌を打ちながら愛想笑いを続ける時間は…とても苦痛だった。街医者の一人娘だという第二側妃のベラと、宰相の娘である第三側妃のカトリーヌ。薄っぺらい自己紹介の内容はほとんど忘れたが、名前だけは記憶に残しておいた。
程なくして終わりを迎えた茶会。第二、第三側妃が退室したあと王妃様に一礼をし、自分も退室しようとしたタイミングで「失礼致します」っと花束を抱えた侍女が一人、部屋の外で待機しているところに鉢合わせた。
「陛下へのお見舞いの花束をご用意致しました。」
「あら、いつもご苦労さま。」
席を立ちこちらへ歩いてきたカルラ様。私の隣に立ち、侍女から花束を受け取ろうとする彼女の手を…思わず掴んでしまった。
その直後、扉の前で待機していた護衛の騎士だと思われる男性にすぐさま王妃の元から引き離され、身柄を拘束されてしまった。
「無礼者っ…側妃の分際で許可もなく王妃様に触れるなど許される行為ではない!すぐに国王陛下に御報告をっ!!」
───腕が折れるっ!!
加減なく押さえつけられているせいで身体が悲鳴をあげているが…それ以上に気になる点が一つだけある。侍女が手にしているお見舞い用の花の束。あれは間違いなく─…毒花だ。
「カルラ様っ…その花は危険です!」
「エマ…?どういうこと…?これは陛下がお気に召されている花で、お見舞いの際には必ず持っていくようにしている花束なのですよ?貴女、それに毒があると仰るつもり?」
「はい、その通りです!薬草学について学んだ際に実際にこの目で見たので確かです!その花は有毒植物…トリカブトに間違いありませんっ」
「貴様っ…王妃様が国王陛下に毒を届けていると言いたいのか?」
私を拘束している騎士のその発言に、一瞬頭が真っ白になった。もちろんそんなつもりで言った訳では無い。
ただ…平均寿命が長いとされている吸血鬼、しかも国王にあたる御方が簡単に病に倒れるなんて何処かおかしいと、前世で小説を読んでいた頃から疑問に思っていた。文字で読んでいるだけでは分からなかったが、裏で誰かが国王陛下暗殺という恐ろしい計画を立てていて、この毒花を利用し、水面下に暗殺を実行していると思うと…どうにも辻褄が合うような気がしたのだ。
前世の私は花や薬草に興味があり、ネットや動画を使ってよく勉強したので間違いない。歴史の中で実際にトリカブトを利用した毒殺事件が起きているという記事も見たことがある。フグの毒と同じで解毒剤や特効薬がないことで、自殺目的で利用されるという動画も見たことがある。
───陛下の体調が優れないのは、この花の毒作用のせいではないだろうか?