側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜
まずは新鮮な空気を取り入れようと、長く閉め切ったままであろう窓を開けてみる。手入れされていない庭の木の枝がすぐそばにあるせいで、景色を楽しむことは難しそうだ。
窓を開けたまま、部屋の掃除に取り掛かろうとした時だった。外から話し声が聞こえてきて、再び窓の外へと視線を送る。
「申し訳ございません…お通しするわけにはいきません。」
「自分の側妃に会うのにお前の許可が必要なのか?随分と偉くなったもんだな」
「私ではなくっ、」
「誰の指示だ?」
「…王妃様のご命令ですっ」
───どうしてっ、ギルバートがここに…?
会いたいと願ったのは事実だが、実際に来られると怖気付いてしまう。
門前払いとはこういう時に使う言葉なのだろう。ギルバートは敷地内に入ることを拒まれたようで、ここから見ても分かるほど苛立った様子で門の前に立っている騎士を怒鳴りつけている。
「いいからそこを退け…俺にはエマに会う権利がある」
「…しかし、彼女の言うことが本当なら迂闊に接触するのは危険です。」
「こんな物騒な城に閉じ込めて罪人扱いしているわりに、エマの言うことを信じているようだな」
「っ…それは」
「国王陛下の息子であるこの俺が、たかが人間の小娘に脅かされるとでも?」
「…それでもっ……王妃様のご命令に背くわけにはいきません。殿下もお分かりですよね?どうかご理解ください。」
──ギルバート、、
小さな声で彼の名を呟けば、まるで聞こえたかのように顔を上げこちらをジッと見据えたギルバートと目が合った…ような気がした。
何か言葉を交わしたわけではないが、”俺を信じろ”と言われているような気がしたので首を縦に振って見せれば…すっかり見慣れた意地悪な笑みを浮かべてから、こちらに背を向けて立ち去ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見届け、気を取り直して部屋の掃除に取り掛かる。
例えこの世界の全ての者が敵になったとしても、ただ一人…ギルバートが私のことを信じてくれているのなら…それだけで強くいられるような気がした。
キリのいいところで手を止め、埃を払ったベッドの上で横になる。今宵は食事が運ばれてくることはなさそうなので、このまま目を閉じて休もうと思った。
疲れが出たのか、すぐに夢の中へ落ちてしまいそうだったのだが…
【……エマ】
聞き覚えのある声が私の名を呼んでいることに気がつき、ハッと身体を起こした。
開け放していた窓にちょこんと羽を下ろして立っている青い小鳥。久しぶりの再会に思わず視界が歪んだ。
【大変なことになったね…大丈夫?】
「私は…大丈夫だけどっ、、それよりキミは今までどこにいたの?問題ないならこのまま私と一緒に居てくれないかな?心細くてたまらないのっ」
【ごめんね…それは出来ない。】
「っ、どうして…?」
【僕は…時に風であり、神であり、魔獣でもある】
「神様なの…?」
【…今はただの小鳥だよ。宮殿の様子を見てきたけど…さすが歴代の王を凌ぐ魔力の持ち主だね…王太子殿下に見つかって、お叱りを受けたよ】
「ギルバートに会ったの?!!」
【魔獣だと勘違いされて危うく始末されるところだったけど、僕はただの小鳥で…これからエマの元へ行くと告げると、あっさり解放してくれたよ。代わりに…贈り物と言伝を預かった】
───贈り物?
小鳥は私の手のひらの上に乗っかって、クチバシをそっと開くと…ネックレスのようなものを吐き出した。
【”魔力を込めておいたから、肌身離さず身につけておけ”と言ってたよ。冷たそうに見えて意外とキザなことをする王子だね?エマのことが心配でたまらないみたいだ】
「……そうだと、嬉しいな。」
【いいこと教えてあげようか?彼が何度もエマにキスをするのは…君を守るためだよ。】
「…え……?」
【王家の血筋は強力だからね。キスを交わすだけでも”自分のものだ”ってマーキングすることが出来る】
「えっと……それは、つまり?」
【匂いだよ。人間には感じない…微かな匂いを彼らは感じ取ることが出来るんだ。】
「それがどうして…私を守ることに繋がるの?」
【王太子お気に入りの姫君に手を出そうとする者はそう簡単には現れないからね。君を他の誰にも取られないように、自分の匂いをつけて威嚇してるんだよ王子は。】
───ギルバート殿下、ツンデレ説!!!
その話が本当なら…今すぐ会いに行って確認したいが、現状それは叶いそうもないので今は大人しくことの成り行きを見守ることにしよう。