側室転生ヒロイン、王太子の寵愛に溺れる〜最恐王太子との吸血婚〜

 いつの間にか眠ってしまっていたみたいで。気が付くと朝になっていた。
 早朝から王都へ買い出しに向かった騎士により、パンと牛乳が届けられ…空腹で過ごすことも無く、息が詰まる後宮での生活よりも少し気楽に過ごせている自分に正直驚いた。

 あれからギルバートが訪ねてくることは無かったが、青い小鳥の話を聞いてから…彼に会う日を待ち遠しく思っている自分がいた。

 しかしそうなると、第一側妃であるマリアンヌの存在が気になり始める。彼自身も正妃の存在を仄めかしていたし…それ以外にも、第二、第三側妃とは初夜を終えていると言っていた。

 こうなったら、早く自分も……っと、彼に言われた通り誘惑する方法を一人考えながら長い一日を過ごす。

 毒花の調査はどうなったのか…陛下の具合のその後も何もわからないまま…朝と夜を繰り返すだけの日々。
 このままずっとここから出られなかったらどうしよう…っと、漠然とした不安を抱きつつも…ギルバートの顔を思い浮かべると、逃げ出そうなどとは到底思えなくて、、ただ迎えが来ることを祈り大人しく過ごしていた。

 しかしそんな日々は突然、終わりを迎える。

 満月の夜のことだった。部屋で横になって眠りについていた私の耳に、男性の叫び声のようなものが届いて飛び起きた。

「……あの、何かあったんですか?」

 部屋の外にいる騎士に問いかけてみるが応答がない。不審に思いながらそっと扉を開くと…うつ伏せで倒れている騎士の姿を発見し、慌てて彼の元へ駆け寄った。

「大丈夫ですかっ…?!一体、なにがっ」

 スっと私の視界に入るように目の前に影が出来たことに気付き顔を上げると…そこに立っていた人物の顔を見て、全身に鳥肌が立った。

「ごきげんよう…お会いするのは初めてですよね?私、ギルバート様の側妃のうち一人…マリアンヌ=リフレインと申します。」
「あ…あなたがっ、マリア、、」
「……あら?どこかでお会いしたことがあったかしら?どうしてそんなに怯えた顔をされているの?」

第一側妃、マリアンヌの容姿は…前世で私のことを山の斜面から突き落とした友人、茉里愛(まりあ)にとてもよく似ていたのだ。

「もうすぐここにギルバート様が来られます」
「……殿下が…?」
「陛下の元へ届けられていた花には猛毒がある事が証明されたみたいで。貴女は罪人などではなく…むしろ国王陛下の命を救った聖女様だと、皆が口を揃えて仰っておられます」

 少しずつ私と距離を縮めるように歩み寄ってくるマリアンヌ。前世で彼女によく似た茉里愛に殺された記憶があるだけに、身構えてしまうのはもう仕方がないことだと思う。

「ギルバート様はきっと王太子妃に貴女を選ぶことでしょう。気付いておられないみたいだから、教えてあげるわ。彼は他の側妃達にはキスは愚か、指先ひとつ触れるような行為もしていないのです」
「……え?そんなはずないっ、」
「出来るはずがないのです。彼は長い間、私に洗脳されていたから…私以外の者に触れることは出来なかったはず」
「洗脳…って、、一体何を、」
「突然変異というやつです。魔力を持つ人間がいても不思議ではないでしょう?もう少しで手に入るはずだったのに…貴女が現れてから彼は私の元へ寄り付かなくなった」

──嫌な予感がする。

首元で揺れるギルバートに貰ったネックレスをギュッと強く握った。

「魔法で彼らを洗脳し側室に入るところまでは順調だった。ただ吸血の誓いを立てる行為をしてしまうと、洗脳が解けてしまうので…病弱で子を産めないという娘を演じて他の側妃の受け入れを許可したのが…間違いだった。」
「なぜ…そのようなことをっ」
「国王陛下を暗殺し、跡を継いで王となったギルバートと共に国の頂点に立った後…私の魔力を公表するつもりだったの。そうすれば…吸血鬼が国を支配する世の中を変えられるような気がして─…」
「マリアンヌ…様、」
「一度解かれた洗脳は、もう二度と戻らない。貴女のせいで計画は台無し。あの毒花を一番最初に陛下に贈ったのは私だと、きっと今頃調べがついている頃でしょうね。」

 スっと顔から笑みを消したマリアンヌ。その表情を見て、かつて友人だった茉里愛の顔を思い出した。

「悪女として裁きを受けるならその前に、消しておこうと思ったの。私を陥れて…貴女だけが幸せを手にするなんて絶対に許さない。」

 世界線が変わろうと迎える結末は同じなのかと思うと、胸が苦しくなった。

 一人でここに侵入出来たところを見ると、マリアンヌが魔力を持っているという説はどうやら本当らしい。目の前で騎士が倒れているのが何よりの証拠。

 自らの手を汚さずとも、彼女は私に危害を加えることが出来るのかもしれない。この世界に思い入れがある訳でもないし、マリアンヌとは友人だったわけでもない。

それ故に今ここで命を絶つことになっても仕方がないかな…っと諦めることは出来るけど、、

───最期にもう一度、ギルバートに会いたい。

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