隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!

タンデムデート


 翌日。

 教室は朝のにぎわいを見せている。

 昨日のことを振り返りながら、隣の席の碧斗くんを盗み見る。

 相変わらずの地味な装い。制服の着こなしもなんだか野暮ったい。

 まるでモブキャラみたいに教室の背景の一部になっている。


「なに?」


 彼が急に顔をこちらに向けてきたから、バッチリ目が合ってしまった。


 気まずっ! バレてた!


「んーん、昨日はどうもありがと、楽しかった」


 自分の前髪が気になってそっと指で撫でる。


「あ、あと!」


 私は身を乗り出した。

 すると向こうも身体をかたむけて顔を近づけてくれる。

 隣同士だったのに、こうして教室で話すのは初めてだ。


「勘違いして突っ走って、みんなに迷惑かけてごめんね」

「いやいや、いいって別に」


 碧斗くんがカツアゲされたように見えた一件の真相は、借りていたお金をただみんなに返していただけだった。


 カラオケで、北条くんが教えてくれた。


「あおくんがね。この前招集かけてきたからなんだろー?って思ったら、今度妹の誕生日だからお金貸してくれって。やさしいよねー」

「まふ、お前少し黙れ!」

「ごめーん、あおくん。でもホントだもんね」


 妹の誕プレを買うためにみんなからお金を借りるなんて驚きだ。


「妹さん思いで、優しいところあるんだね」

「普通だよ」


 碧斗くんはそう言って眉を上げ、まばたきをする。

 なんか、学校での彼は表情も固くてそっけない。昨日みんなといるときはもっと楽しそうで、心の底から笑ってる感じだったのに。


 でも、どうしてだろう。


 そんな地味な姿も、なんでかだんだん魅力的に見えてくる。

 髪型と眼鏡のせいでぼやけてるけど、たまに溢れ出す切れ味の鋭いオーラは隠しきれてない。


 その時、友達の莉愛(りあ)が近づいてくるのが見えたから、私は碧斗くんに向けていた顔をひょいとひっこめた。

 莉愛のよく通る声が、私たちの間に滑り込む。


「橙子ー。聞いたよ。昨日男の子とカラオケ行ったんだって?」


 げっ、昨日のあれ、誰かに見られてたんだ。


 男女のそういうのってすぐ伝わるんだよね。


「ねー、誰といっしょにいたの? 学校(うち)の生徒だったらしいじゃん」


 どうやら二人でいるところを見られたらしい。

 そうか。あの時碧斗くんは北条くんの手によって”総長”の容姿に変えられていたから、見た人も誰かわからなかったようだ。


 誰と行ってたかって?


 すぐそこにいるんだけどなあと思いつつ、私はその場では黙っていた。

 碧斗くんも無風。まるで無関心だった。
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