隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!
帰り道。
駅前の交差点で、信号待ちをしていた。
ああ、ダメだなあ。集中しないと!
大会もあるのに、恋なんてしてる場合じゃない!
ようやく元カレの顔も忘れることができたってのに(忘れてないけど)、新しい恋に心を乱されてる場合じゃないよね。
「あれー、橙子じゃん?」
急に呼び止められて、足を止める。
声の主は、なんと元カレだった。
くそっ、せっかく忘れてたのに(忘れてない)。
「伊藤くん……」
あーもう、きまずっ。
「こんなところで会うなんて、奇遇だな」
奇遇じゃないよ。学校の最寄り駅前だし、そんなこともあるって。
「うん、偶然だね」
「だな。俺は待ち合わせだけど、橙子は何してんの?」
元カレこと、伊藤孝太郎くんは当たり前のように下の名前で呼び捨てにしてくる。
別れたんだから私はあえて名字で呼んでるってのに。
てか、フッた女になれなれしく声をかけてくるのはなんか違う気がするんだけど。
「別に、帰るとこ」
と、一言だけ答えて目をそらす。
「ふーん」
何? ふーん、て。
早く信号、変わんないかな。
これでも話したくないオーラをビンビンに出してるつもりなんだけどなあ。
信号が青に変わり、横断歩道を渡る。
伊藤くんと足をそろえて。
いや、離れてよって思ったけど口には出せない。
結局、いっしょに歩いてるみたいになっちゃう。
駅前のロータリーまできた時、私たちの前に一人の女の子が立ちふさがった。
「こうたろ! お待たせぃ!」
「お、みさき!」
明るい髪に、大きな目。人懐っこい感じの女の子が伊藤くんに声をかけると、彼も手をあげて返事をした。
他校の制服。伊藤くんの今カノかな……。
「あれ、その子誰?」
みさきと呼ばれた女の子は私にじろじろと視線を向けながら伊藤くんにたずねた。
「ああ、同じ学校の、ともだちかな」
友達じゃありませんけどね。
私が口を開かないでいると、みさきさんは不思議そうに首をかしげた。
いいなあ。人生気楽そうで。
私もこれくらい鈍感で、かつ女子力高かったら、フラれなかったのかな、とか考えちゃう。
「じゃ、彼女とデートしてくるから」
伊藤くんはあわれんでるような目で私を見た。
知らないよ。どこへでも行け。
私が心で毒を吐いたとき、一台のバイクが横にとまった。
ブオオォン!!
「相川、何してんの?」
え、うそ。
碧斗くんだった。