隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!
冷たい。
目を開けると薄暗かった。
私は両手を縛られて、無機質なコンクリートの上に転がされていた。
どこかの倉庫のような場所だ。
私が体を起こすと、近くにいた男たちが気づいて声をかけてくる。
「くくく、目を覚ましたか」
声の主の男を中心に、約十人の男たちが私を取り囲んでいた。
私は状況を理解した。拉致されてどこかわからない場所へ連れてこられたようだ。
すぐに立ち上がろうとしたが、腰が抜けてしまって足に力が入らない。
叫ぼうと口を開けるが、男たちへの恐怖から声がうまく出せなかった。
「抵抗してもムダだ。おとなしくしとけ。どうしてこんなことになったか、わからないって感じだな。今から教えてやる」
中心にいる男は、私を見下しながら狂気的に、しかし同時に物静かに語りかけてくる。
「天使碧斗……知ってるよな?」
「あ、碧斗くん……」
震える唇を動かして碧斗くんの名前をしぼりだす。
「ああ、そうだ。俺たちは碧斗の”友達”なんだよ。あいつからお前のことを好きにしていいって言われてな」
目の前の男が何を言ってるかわからなかった。
「そんなこと! 碧斗くんがそんなこと言うわけない!」
「ひゃははは! よし、じゃあ碧斗の野郎に直接訊いてみるか」
男はそう言ってスマホを取り出す。見覚えのある私のスマホだった。
スマホから碧斗くんの声が聞こえてくる。
『もしもし、橙子か? 今どこだ?』
「もしもーし、碧斗くんですかー?」
男の挑発めいた返答に、碧斗くんの気配が変わるのが通話越しでもわかった。
『……誰だテメー』
「久しぶりだな。殺戮ゴブリンズの阿久津だよ。忘れたとは言わせねえ」
『阿久津だと? 橙子をどうした』
「女なら俺の横にいるぜ。へへへ」
『おい、どういうつもりだ』
「今から釜倉の港にある倉庫までこい。一人でな。逆らったら女がどうなるか、わかるよな?」
『俺が行くまで橙子に指一本触れんじゃねえ!』
そこで阿久津と名乗った男は通話を切った。
来ちゃダメ! 碧斗くん!
私のせいで碧斗くんが殺されちゃう。
いくら碧斗くんが元総長だからってこんな人数相手にムリだよ……。
「へっへっへ、碧斗のやつ、ブチ切れてたな。おもしろくなってきたぜ」
「阿久津さん、碧斗の野郎の目の前でこの女やっちゃいましょうよ」
「そうだな。女はお前らが好きにしろ。あいつに最高の絶望を味合わせながら俺が直接頭カチ割って殺してやる」
およそ人間とは思えない会話を繰り広げながら男たちは笑いあっていた。
その傍らで、私は小声でつぶやいた。
「碧斗くん、助けて」
目の前にいる男たちには聞こえてはいないだろう。
私は唯一、碧斗くんだけを想っていた。