隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!

 しばらくして、遠くの方でバイクのエンジン音が響いた。

 近くで止まったようだ。


 もしかして碧斗くん? 待って、ダメだよ。


 ほどなくして、倉庫の扉が音を立てて開く。

 扉の両サイドには男が二人、それぞれ鉄パイプと木材を持って待ち構えていた。



 このままじゃ碧斗くんが殴られちゃう!


 そして、入ってきた人影に対して容赦なく悪意が振り下ろされる。

 次の瞬間、木材を軽くかわし、鉄パイプを右手一本でつかんだその人影は、男二人に素早く蹴りを浴びせて吹っ飛ばした。

 およそ人間とは思えない離れ業。

 その人影はゆっくりと顔を上げてこちらを見る。

 倉庫の中が静けさに包まれた。


 間違いなく碧斗くんだった。


天使碧斗(あまつかあおと)、よく来たな」


 阿久津が私のそばでニヤニヤと笑っている。


 碧斗くんは私を目にとめると一歩踏み出した。


「橙子!」

「碧斗くん!」


 彼の呼びかけに、私はなんとか声を絞り出した。


「碧斗。今からお前をボコボコにして楽しいショーを見せてやるからよ」


 うすら笑いを浮かべる阿久津に、碧斗くんは冷え切った声で言葉を返す。


「阿久津、お前が俺のことを恨もうとかまわね
え。それは俺の因果だ。いつでも受けて立つ」


 「だがな」と言った碧斗くんの声はいっそう()てついた。


「俺の大事な人を傷つけることだけはゆるさねえ」

「バカめ! カッコつけたこと言ってんじゃねえ。俺はあの時の恨みを忘れてねえからな!」

「あの時、か。あれは互いの総長がケジメをつけて終わったはずだ」

「ああん? こちとらそれじゃ気が済まねえんだよ。ネンショー(少年院)」にもぶち込まれて散々だったぜ。借りはきっちり返すからな」


 阿久津の言葉を受けて、しばし黙り込む碧斗くん。

 そして、ゆっくりと笑った。


「阿久津、あまり俺を怒らせるなよ。橙子に手出した以上、お前ら全員無事じゃ済まねえぞ」

「けっ、そりゃこっちのセリフだよ。チームをやめて一般人(パンピー)になったお前が、現役の俺たち相手に無事で済むと思うなよ」


 ニヤニヤと笑う阿久津、その視線の先、碧斗くんの背後に一人の男が迫る。

 フルフェイスのヘルメットをかぶったその男の手の中で火花が散る。


「碧斗くん! 危ない!」


 私が叫ぶと同時に、碧斗くんをスタンガンが襲う。

 しかし、碧斗くんは背中に目でもついているかのように、背後からの攻撃をさらりとかわす。

 と、同時に相手に叩き込んだ拳は、男のヘルメットをたたき割って粉砕し、数メートル先まで吹っ飛ばした。


「ヘルメットを素手で……」
「なんだアイツ……化け物かよ」


 周囲の男たちに動揺が走る。

 阿久津も例外ではないようで、「お、お前ら!」と焦った声で仲間たちを見回し叫んだ。


「全員で囲めばなんとかなる。やっちまえ!」


 そして、その瞬間、碧斗くんも動いた。


 碧斗くんの拳が男たちのコメカミやアゴを正確に射貫いていく。

 一人、二人、碧斗くんの手によって男たちが次々と倒されていった。

 その光景をあっけにとられて見ていたのは私だけじゃない。

 阿久津もまた目を泳がせながら、見ているだけだった。


「な、な!?」


 数秒後、十数人いた男たちは碧斗くんによってすべて倒され、その場に立っていたのは碧斗くんと阿久津だけだった。


「阿久津、終わりだ」


 そう言った碧斗くんは、反撃する構えすら与えることなく一瞬で阿久津のふところに飛び込むと、顔面に拳をみまわせた。

 阿久津は見事なアーチを描いて吹っ飛んでいき地面を転げまわる。


 碧斗くんは私のそばにしゃがみ込み、顔を近づけてきた。


「橙子……」

「碧斗くん……」


 碧斗くんは私の体に腕を回すと、優しく抱きかかえた。

 いわゆるお姫様抱っこの状態、まばたきを繰り返す私に碧斗くんは優しい目を向けてくれる。


「無事でよかった」

「うん、来てくれるって信じてた」


 倉庫を出たところで、数人の男たちがこちらに向かってくるのが見えた。

 碧斗くんの四人の親友たちだった。

 その顔ぶれに碧斗くんは胸を撫でおろしたみたいで、彼の顔の緊張がやわらいだ。


「無事だったか!」
「あおくーん、橙子ちゃーん!」
「きっちり始末したか?」


 阿修羅くん、まふくん、龍二くんが心配そうに駆け寄ってくる。

 片手をあげて返事をする碧斗くん。


「碧斗、車を手配してある。橙子ちゃんを病院へ」

「京介、みんなも……すまねえ」

「心配するな。うちの一族の病院だからコトにはしないさ」

「なにもかも、わりぃな」


 その後、私は車に乗せられて病院へと運ばれた。
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop