隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!
碧斗くんと恋人になってから数日が過ぎた。
ひっそりと噂が本当になったっていうのに、もう誰も私たちのことなんて気にしていない。人の噂話なんてこんなもんだよね。
莉愛にだけは言った。
「頑張れ。総長の女」なんて冗談めいたアドバイスしながらいっしょに喜んでくれた。
今日は、日曜日の昼下がり。
前に約束していた碧斗くんとご飯に行く日。
付き合ってから初めてのデートの日でもある。
まさかこの約束をした日から、数日のうちにあんな事件があって、付き合うことになるなんて思ってなかった。
前髪大丈夫かなあ。
セットに一時間かけた前髪を指でなでる。
触らない方がいいのにどうしても気になっちゃう。
普段メイクもあまりしないけど今日は頑張ってみたんだ。
あれ、そういえば、碧斗くんはどんな恰好でくるんだろ?
学校での地味な碧斗くん? それともイケてる総長な碧斗くん?
どっちだろう……?
どっちがいいかと言われれば、”総長”スタイルなんだけど。
地味な碧斗くんもそれはそれで他の女の子に注目されたりしないだろうから、自分だけのものって感じでいいんだよね。
あー、どっちだろうなあ。
私が妄想を膨らませていると、バイクの排気音が鳴り響く。
ブオオオォン!
えっ? まさか碧斗くん?
バイクで来たの?
そう思って音の方を見ると、全然関係ない人のバイクが駅前を通過していった。
なーんだ。 人違いか。
「けっこういい音だったなー」
え……!
気づいたら隣に人がいた。見る前に声で碧斗くんだってすぐにわかったけど。
ゆるいパーマがかかった黒髪、眼鏡はかけてない。
服は、白のロンティーにデニムのシンプルコーデだった。
今まで見たことのない髪型に服装の碧斗くん。
陰キャでも総長でもない初めての碧斗くんがそこに立っていた。
「碧斗……くん?」
今まで見たことのない碧斗くんに見惚れていると。
「橙子、ヤバいって、めっちゃカワイイじゃん」
え、カワイイ? 私?
不意をつかれて顔が真っ赤になった。
「前髪、いつもと違う。それにメイクも……」
うそ、気づいてくれたの、すごい……。
「碧斗くんも、カッコいいよ。いつもより……」
「マジ? よし……」
小さく拳を作る碧斗くん。
「まふに紹介してもらった美容院行ってさ、初めてパーマしてみたんだよね」
「うんうん、いい感じだよ!」
とは言いつつも、私は心の中である心配をしていた。
新しいスタイルの碧斗くんの破壊力が強すぎて、このままだと明日からクラスの女子たちの見る目が変わっちゃうかもしれない。
でも、碧斗くんなら大丈夫。
ずっと、いっしょにいるって約束したから。
私たちは微笑みあい、緊張しながらも、手をつないで歩き出した。