隣の席の地味男子 実はイケメン総長で毎日がドキドキです!
総長と仲間たち
翌日。
にぎやかな朝の教室。窓際の一番後ろが私の席。
きた。
心の中でそう叫ぶ。
昨日、私を助けてくれた天使碧斗くんらしき人物が、ゆっくりと教室に入ってくる。
しかし、あまりの影の薄さに誰も気が付かない。
もちろんあいさつをする生徒もいない。
とうの本人も背中を丸めながら、ぬうっと教室を横切り、そのまま私の隣の席に座った。
私の方をチラッとだけ見て。
てか、やっぱり誰?
もっさりした重たい髪、その前髪で目元が隠れてて鋭く光るはずの瞳はよく見えない。なにより昨日はかけてなかった黒縁眼鏡をかけているせいで雰囲気が別人に見える。
ねえ、本当に昨日のあの男の子?
間近で見てもよくわからない。
でも、彼は昨日私にこう言ったんだ。
「夏休み明けの席替えで隣の席になったじゃん。その前は離れてたけど、でも入学の時は前後で並んでたんだけどな。ほら、プリントまわしてくれた時、一回しゃべったことあったし」
なんて言われても、ぜんっぜん覚えてない。
入学時の席ってたしか出席順、相川と天使で確かに前後だったっぽいけど。
てか数カ月前のこと、よく覚えてるんだなあ。
記憶力がいいんだね。
「プリントまわすとき……そういえば後ろの席に暗そうなメガネくんがいたかも……」
「ひでえな、その言い方。てか覚えてくれてなかったの地味にショックなんだけど」
「えっと、なんかごめん」
「まあ、いいや」
彼は、少し口ごもってから、切り出した。
「とりあえず、駅まで送るから」
「えっ! そこまで迷惑かけれないよ、そんなに心配しなくても大丈夫だか──」
私がそう言って身を引こうとすると、ガシっと腕を掴まれた。
「するだろそりゃ! ほっとけねえよ」
そんな彼の言葉と、手から伝わってくる体温に心臓が飛び跳ねる。
私がビックリして固まっていると。
「その……あ、ほら、一応クラスメイトだし」
「……ありがと」
「いや別に。あー、あと俺のこと、碧斗って呼んでいいから」
「あ、あおと、くん」
そんな感じの会話をして、その後は駅まで送ってもらった。
他愛もない話をしながらだったけど、碧斗くんは聞き上手で話しやすかった。
なんかいろいろ悩んでた気持ちも少し楽になった。
やっぱり、私のことも下の名前で呼んでって言ったほうがよかったのかな。
いやいや、何考えてんだ私は。
いきなり詰めすぎだって。初対面なのに。
あ、初対面じゃないか。しゃべったことあったんだっけ。
もうわかんないよ。
でも、助けてくれて嬉しかった。
その気持ちだけは、ちゃんと伝えたい。
その日は一日中、隣の碧斗くんを意識していた。
私の学校生活の中で一番長い一日だった気がする。
そしてわかったことは、彼は誰とも一言も話さないし、空気のように過ごしているということ。
まさしく、陰キャ×ぼっち。
二つの属性を極めたようなキャラで、クラスにとってなんら影響を及ぼすことのない無害な人間だった。