このドクターに恋してる
 私が頬を膨らませると、兄は呆れた顔をした。

「そんなの、陽菜がどっちを好きかで決まる悩みだろ?」
「うっ、そうなんだけど」
「どっちと結婚して夫婦になる未来が想像できる?」
「どっちって……難しいよ」

 想像だとしても、簡単に思い浮かべることができなかった。
 母が胸の前で両手を組み、うっとりとした声を出す。

「お母さんはねー、想像できるわー。どちらも白いタキシードがよく似合うもの」
「母さん……。三人で結婚するわけにはいかないんだよ。どちらもじゃダメなんだって」
「あらっ! そうよね」

 兄に指摘された母はガッカリした顔を私に向けた。

「残念だけど、どちらかを選ぶしかないわね。今、パッと浮かぶのはどっちのお顔?」
「えっ、どっちの顔って、どっちも浮かばないけど」
「えー、そうなの?」
「うん……」

 嘘だった。

 そのとき、私の脳内には微笑む郁巳先生の顔が浮かんでいた。
 だが、それをここでは話せなかった。
 顔が浮かんだからと決めてはいけないように思えたからだ。
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