このドクターに恋してる
 サラダのミニトマトを口へと運んでいた希子さんの目が丸くなった。

「えっ? 郁巳先生? 宇部先生じゃなくて?」
「はい」
「あちらから誘われて行ったのよね? 陽菜が突撃したのではなくて」
「そうです。あちらからです」

 希子さんは「で?」と話の続きを促し、ミニトマトをもぐもぐと食べる。私は持っていた箸を置いた。

「交際を申し込まれました」
「ええっ……」
「希子さん、しーっ」

 希子さんが大きな声を出しそうになったので、私は慌てて止める。
 小声にしてとは要求していないのに、希子さんはなぜか前のめりになって、声のトーンを下げた。

「どういう展開なのよ? 宇部先生とはその後、どうなの?」
「宇部先生とは特に変わったことはないです」
「お食事はする予定のままなのね」
「はい。それでどうしたらいいのか、悩んでいるんです」
「悩んでいるってことは、申し込みの返事は保留にしているってこと?」

 私が「はい」と頷くと、希子さんは姿勢を戻して「んー」と唸った。
 
「それは悩むわよね。でも、贅沢な悩みね」
「私もそう思います」

 私たちは箸を持って、食事を再開させる。
< 104 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop