このドクターに恋してる
 私が聞くと、希子さんは笑った。

「大ありよ。陽菜はかわいいし、明るいし、素直だからね。私が男だったら、陽菜と付き合いたいもの。で、めちゃくちゃ甘やかしたい」
「そんなふうに言うのは、希子さんくらいですよ」

 私のことを高く評価してするのは、希子さんと母くらいしかいない。どんなときでも優しくしてくれる希子さんに私は目を潤ませて「ありがとうございます」と伝えた。
 希子さんは「大げさね」とまた笑う。

「宇部先生と食事をしてから答えを出したら?」
「そうですよね-。食事したら、答えが出そうな気がします」
「うんうん。どちらと一緒にいたいか、わかると思うよ」
「そうですよね! なんだか力が出てきました」
「力はいらないと思うけど」

 握りこぶしを作って気合いを入れていた私は希子さんの突っ込まれて、恥ずかしくなった。
 照れ笑いし、トレイを持って立つ。

「そろそろ行きましょうか」
「そうね」

 私たちは食器返却口にトレイを置き、食堂をあとにした。
 これから食堂に向かう顔見知りのスタッフ数人とすれ違い、会釈する。
 不意に希子さんが私の腕を掴んだ。

「陽菜、あっち」
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